第16作目にあたる、北野映画を絶賛製作中の殿は、
「やっと撮影が終わりまして、これから編集です」
と、先頃放送した「新・情報7daysニュースキャスター」にて、さらりと報告されていました。
殿の口から、こういった“北野映画についてのお話”を聞くたびに、“思い出”にずうずうしいわたくしは、いつだって、付き人時代に体験した、北野映画の思い出の数々がフラッシュバックしてしまうのです。
そういえば、殿から初めて“コント”の手ほどきを受けたのも、他でもない北野映画の現場でした。そこで今回は、殿から直に教わり、その後、たびたび映画の現場で披露することになった、ビートたけし直伝の、定番な“ミニコント”について書かせてください。
あれはもう15年程前、「菊次郎の夏」撮影前のロケハンでのこと──。ちなみにロケハンとは、撮影で使う場所を下見することであります。
その日は地方のロケハンで、2箇所程撮影現場を下見して回ると、現場から程近いうどん屋さんにて、殿&スタッフの方々全員で、お昼となったのです。で、そこのうどん屋さんで、北野組の面々が案内された部屋が、靴を脱いで上がるタイプの座敷であり、殿は現場で確認してきたロケ場所にインスパイアされたのか、うどんが来るまでの間、饒舌に映画のアイデアをスタッフに話されていました。
そして、大変おいしいうどんを頂くと、早々と東京へ戻ることになり、おのおのが座敷を下りて靴を履こうとしていた時、付き人のわたくしは、殿のサンダルを、まるで木下藤吉郎が極寒の日、信長に「暖めておきました」と草履を出した場面を彷彿とさせるかのごとく仰々しく、「殿、お履物はこちらでございます」といった感じで、すっと殿の履物をお出しすると、一瞬おかしな間があってから、殿からいきなり頭を叩かれたのです。訳が分からずびっくりしているわたくしに殿は、
「お前はどうしてそこの下駄を出さないんだ!」
と、右側の棚のような置物の上になぜか置いてあった、きっと観賞用だと思われる、やたら高い下駄を指差したのです。殿は続けて、
「お前は気が利かないな。ここでお前がその下駄を出して、俺が履こうとして『あれ、おかしいぞ。なんだか景色がやけに高いな。成長期で背が伸びたかな? ってバカ野郎! なんだこの下駄は! 俺は天狗か!』ってやって笑いを取るとこだろ」
と、頭を叩かれた理由を説明されたのです。要するに、“ボケてサンダルと違う履物を出して、2人で周りを笑かせようぜ!”といった指摘だったのです。