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「たけし金言集」続・殿の付き人になるということ(2)

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 その昔、殿がとある映画に役者として参加され、雨の中、ズブ濡れになるシーンの撮影がありました。ハードだったその日の撮影は、予定をかなりオーバーしても終わる気配がなく、撮影終わりで約束があった殿は、かなりイライラされていて、結局、2時間半程押して撮影が終了となると、慌てて衣装から私服へ着替え始めたのです。この時、付き人のわたくしは着替えをお手伝いしようと、まずは殿が衣装で履かれていた膝まである革のロングブーツを脱がせにかかったのですが、濡れたブーツは滑り、何度やっても脱がすことができず、着替えで使っていた楽屋に“使えないダメな付き人”的な空気が漂いだし、四苦八苦していると、見かねた殿から、

「さっきから何やってんだよバカ野郎! いいよ、もう自分でやるよ!」

 といったツッコミと同時に“どけ!”とばかりに、突き飛ばされてしまったのです。いつだって楽天家でポジティブなわたくしですが、この時ばかりはさすがに落ち込みました。だって、憧れだった方から突き飛ばされるって‥‥。ちなみに殿はこの出来事を、

「こないだ映画の撮影が終わって着替えてたら、北郷が俺のブーツを脱がせようと手伝い出したんだよ。あいつがまた不器用でよ。違う方向に俺の足をひねったりしていつまでたっても脱がせないんだよ。もうイライラしてよ、自分で脱ごうと思ってあいつ突き飛ばしたら、ブーツがスポッと抜けて、あの野郎、ブーツを抱えたまま後ろに2回でんぐり返しして、そのまま転がって外へ出て行ちゃったんだから‥‥」

 と、しっかりと笑い話にされていました。

 話を“タバコを吸う時の苦労”に戻しましょう。

 殿がタバコを吸われる時、屋内で行動範囲の狭い、テレビの収録時はそれほど大変でもないのですが、これが屋外での北野映画の撮影となると、なかなかやっかいなんです。

 殿は自身の映画で監督も役者もやられる方です。

 俳優として撮影される側から、監督として撮る側へとせわしなく現場で動き回ります。そんな殿がタバコを吸われると、付き人は映画のスタッフさんの邪魔にならぬよう、灰皿を持って殿に付いて回るのです。

 さらに、雨など降られるともう最悪で、右手に灰皿、左手に傘を持ち、完全に両腕を塞がれた状態となって殿について回ります。そんな両腕が塞がった状態でも、付き人には他にもさまざまな仕事が発生してきます。

 殿は94年の事故以来、両目がドライアイになりやすく、時間にして10分おきぐらいに、使い切りの目薬をさすのが習慣となっているのです。で、目薬をさすと決まって、付き人が用意した少し湿らせたタオルで目の回りを拭かれます。

 目薬を渡す。次に目薬の空容器を殿から受け取ると同時に、湿ったタオルを殿に渡す。この動作を、両手が塞がった状態からこなさなければいけないわけです。

 想像してください。2本の手で、灰皿、傘、目薬、濡れたタオルなんかを持ちかえ、バタバタと腕を動かしている様子を──。

 以前、付き人になり始めの頃、両手を駆使し、手をバタつかせ、大慌てで灰皿やら傘やら目薬やらを持ち替え、なんとかこなしていたわたくしに殿が、

「お前は阿修羅像か!」

 と、腕の動きが速すぎて残像が残り、“手が何本にも見えるぞ!”といった意味のツッコミを、頂いたことがありました。

 とにかく、ビートたけしの付き人とは、日々、小さなミスを繰り返しては、殿からツッコミを頂戴することの繰り返しであり、さらにそれは、殿の機嫌しだいでは、大変怖い思いもする、精神的にもなかなかハードな、世界にたった1つしかない、お仕事なのです。

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