今季の冬は「冬眠しないクマ」が急増する可能性が高い――。
日本全国でクマ(北海道のヒグマと、本州以南のツキノワグマ)による人身被害が多発する中、多くの専門家の間から、そんな物騒極まる声が上がり始めている。
通常、クマは雪が降り始める11月頃から冬眠に入るとされている。ところが今季は、冬眠しないクマが冬の間も街中に出没し続ける危険性が高いというのだ。
いったいどういうことなのか。クマの生態に詳しい動物学者が指摘する。
「今年、史上最悪の頻度でクマによる人身被害が発生している原因は、ふたつあります。ひとつは例年にない夏の猛暑で、クマのエサとなる木の実や果実などが凶作だったこと。もうひとつは絶滅危惧種としての保護活動によって、クマの個体数が激増し続けていることです。ただでさえエサが乏しいところに、個体数そのものが増え続けているため、山野に近い人里どころか、市街地や住宅街にまでエサを求めて出没するようになりました」
クマの行動範囲は、オスで約100平方キロ、メスで約40平方キロと言われ、それぞれの個体が縄張りを持っている。当然、エサ不足に個体数増が重なれば、縄張り争いは一段と熾烈化して、争いに敗れた個体が街中に出没するようになるというわけだ。
だがそのことがなぜ、冬眠しないクマの急増につながるのか。動物学者が続ける。
「クマは秋に食いだめして冬眠に備えます。ところがその食いだめができないと、冬になっても冬眠に入らず、エサを求めて街中をウロつくクマが出てくる。このようなクマは巣穴で冬眠しないことから『穴持たず』と呼ばれています。過去に例を見ないエサ不足と個体数増の状況下で迎えた今季の冬は、この『穴持たず』が雪景色のスキー場や街中などに出没して、人間を襲う危険性が非常に高まっていると考えられるのです」
冬場もクマへの警戒が必要とは、まさに想定外の事態である。
(石森巌)