1年納めの大相撲九州場所でも絶大な人気を誇っているのが、顔をくしゃくしゃにした笑顔が印象の平幕・熱海富士(伊勢ヶ浜)だ。
先場所の準優勝に続いて今場所も優勝争いを演じている。12日目(11月23日)では自身初の結びの一番で、相手が大関・豊翔龍(立浪)と聞くと「お〜終盤って感じっすね。がんばるっす」と満面の笑みを見せていた。
多くの力士は「塩対応」が基本だが、熱海富士は違う。相撲担当記者も、
「どの記者にも分け隔てなく笑顔で答えてくれる。我々にとって『癒し系』ですよ」
と支度部屋の囲み取材でも横綱級の人気だ。
これまで出世力士といえば「中卒叩き上げ」か「大卒の相撲部出身」、あとはモンゴル勢を筆頭とした外国人力士と相場が決まっていたが、熱海富士の場合は「高卒相撲部」出身。千葉県生まれで静岡県熱海市に転居し、片道1時間半以上かかる高校までは遠すぎると、相撲部の顧問の自宅に住み込んだ。
「高校時代の週末にはホテルで皿洗いのアルバイトをして家計を助けていました」(前出・相撲担当記者)
「家族に楽をさせてあげたい、それには相撲でお金を稼ぎたい」と高校3年間で体重を40キロ増やして170キロにした。「相撲界の大谷翔平」と言われる所以は、小学生の卒業文集で「僕は将来力士になります。28歳で十両になり(中略)、シコ名には『熱海』を入れて懸賞金の10分の1は親にあげます」とし、引退後は「ここ熱海に相撲部屋を開き、自分の相撲を来世に伝えたい」と締めくくっており、大谷が花巻東高校時代に記していた「人生計画表」を彷彿とさせるためだ。
自分の目標設定より9年も早い19歳で十両に昇進している熱海富士。今場所初優勝となれば一気にブレイクだ。
(小田龍司)