死者が蘇り、生きている人々を黄泉の国に連れ去っていく…。古今東西、いわゆる「ゾンビ」の存在というのは、生きる者にとっては恐ろしく、厄介であったことは間違いない。
その証拠に、世界には死者がゾンビとして蘇ることを阻止するために、様々な埋葬儀式が生み出され、その証拠となる痕跡が各地に残されている。古代の埋葬法に詳しい専門家が、以下のように説明する。
「古代の人々の間では、簡単に言えば生と死との境界線は曖昧で、死者をそのまま放置しておけば、それは蘇ってくる。蘇った死者は生者の間をうろつき回りながら、新たな獲物を魔界に連れ去ってしまう、という認識が当たり前にあったようなんです。そこで古代人は黄泉の国から蘇った亡霊を抹殺するため、知恵を絞った。それが近年、トルコやギリシャ、アイルランドなどで次々と発掘されている、不気味と言わざるをえない埋葬方法の痕跡です」
トルコにある火葬場の遺跡で見つかった遺体はレンガで囲まれ、全身が釘でレンガに打ち付けられていた。さらに石炭がかけられていたというが、
「石炭というのは死者が蘇った時、さまよい歩く死者を足止めする効果があります。つまり釘とレンガで死者を拘束し、石炭を撒いて歩かせないようにするわけです。シチリア南東部のギリシャの入植地で見つかった遺骨には、頭と腕の上に大きな石臼を置いて押さえつけ、遺体が地上に戻ってくるのを封印した跡がありました。ヨーロッパでは遺体の顔を下にして埋葬する、うつぶせ埋葬を行っていた証拠もあります。もし遺体が蘇って動き出しても、地面の下へ向かって掘り進むしかないからだとされています」(前出・古代埋葬法の専門家)
それだけではない。アイルランドで見つかった、8世紀に埋葬されたと思われる2体の人骨は口に大きな石を突っ込まれたままで、1体は石のせいで顎が脱臼していたというのだ。
「アイルランド人は、いくら体に釘を打ち付けも悪霊は口から放たれると考え、口の中に石を置いて、それを防いだようです。さらに、イギリスにあるノース・ヨークシア埋葬地で発見された遺体には、亡霊を封じ込めるために何度も何度も切断された痕跡が見られた。これは遺体を切り刻まなければ、再び悪霊が体に戻ってきてしまうことを恐れたからではないか、とみられています」(前出・古代埋葬法の専門家)
それにしても、全身を釘で打ちつけ、口に石を詰め、顔を下に向けうつ伏せに埋めてしまうとは…。当時の人々がいかに「ゾンビ」復活に恐れおののいていたかが窺い知れるのだ。
(ジョン・ドゥ)