静岡県の川勝平太知事が辞職を表明した。4月2日、静岡県庁での記者団とのやり取りの中で、突発的に宣言したのだ。
発端は、前日の県職員新規採用者向けの訓示の中での「差別発言」にある。川勝知事は「差別意識は全くない」と全否定し、「読売新聞の報道のせいだ」と名指しで非難。その読売新聞女性記者とバトルを展開した挙句、突然の辞意表明となったのである。事実上、川勝知事の辞職を引き出した読売女性記者とのやり取りを紹介する。
まず、知事に名指しされた読売新聞によると、知事は4月1日の訓示で、こう言った。
「県庁はシンクタンク(政策研究機関)だ。毎日毎日、野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったりとかと違い、基本的に皆さま方は頭脳、知性の高い方たち。それを磨く必要がある」
読売新聞は「特定の職業を比較するような発言で、再び物議を醸しそうだ」と論評している。
これを読んだ県民からは約430件の苦情が寄せられ、読売記者は川勝知事に対し、「農業、畜産に携わる人の知性が低いということですか。おごった考えですね」との声が多数寄せられたことを伝えた。
川勝「それは読売新聞の報道のせいだと思っています」
女性記者「ウチはあくまでも、昨日の知事の発言をそのまま切り取ることなくお伝えした」
川勝「いや、切り取られたんだと思いますね」
女性記者「特に中略もしていないので、切り取っていないと思いますが」
川勝「いや、文章全体の流れ、脈絡からは外れているじゃないですか」
女性記者「野菜を売ったり、牛の世話をしたり、という文脈が出てくるのはここだけで…」
川勝「それは違う職業であるということの例示ですね」
女性記者「違う職業であるということは昨日、はっきりと明示されなかったので、県民の方もそれを受け取った時に『じゃあ、知性が低いと言いたいのですか』という…」
(途中で遮った)川勝「とんでもない話ですよ。それはもう、誤解も甚だしいというか、曲解も甚だしいと思います。しかし、そういう人がいたということは誠に残念で、ぜひその誤解は解いていただきたいと。酪農家、あるいは野菜を作っている人たちを含めて、ずっと大事にしてきました。知性というのは、静岡県の公務員の仕事にそれが必要だからという、そういう流れの中で言っているはずです」
女性記者「であれば、知事からはっきりと言った方がいいのでは」
川勝「今申し上げています。ですから」
女性記者「発言をする知事の側に、問題があったのではないか」
川勝「そういうニュアンスで取られたらそういうことかもしれませんが、原稿を作ったわけではなくて、私は新入職員のお顔を見ながら話しておりまして、話す内容は彼らを励ます、歓迎する、この2つ以上でも以下でもなかったわけです」
女性記者「今後、そういう勘違いを生むような表現にならないように、何か善処するとか、対応として考えていることは」
川勝「ここまでこういう風潮が充満しているということに対しましては、憂いを持っています。そして、どうしたらいいかなと思っていまして、よく考えたんですけれども、準備もありますからね。6月の議会をもって、この職を辞そうと思っております。以上です」
川勝知事はこうして辞意を発した後、記者団の質問に答えることなく県庁をあとにした。岸田文雄総理を追及している野党の国会議員に見習ってほしいやり取りである。
(田中紘二/政治ジャーナリスト)