本人もここまでコトが大きくなるとは思わなかったようだが、当然のことながら、警察もこの事件を「子供がやった悪ふざけ」で済ませることはできなかったようだ。
〈21日、ナイフでメッタ刺しにして殺しますよ。児童ポルノを認めないと君のアグネス御殿は血まみれになりますよ〉
アグネス・チャンの公式Twitter(現X)に、殺人予告ともとれるこんな書き込みがあったのは、2015年9月19日の朝8時過ぎだった。アグネスはこの日、三男の大学入学式に出席するため渡米中で、殺人予告発見後、事務所関係者に連絡。事務所が警察に通報し、警視庁渋谷警察署が脅迫容疑で捜査を始めると同時に、自宅周辺を警戒にあたる騒ぎになったのである。
殺人予告文に記されていた〈児童ポルノを認めないと〉という文言から察するに、犯人は日本ユニセフ協会大使として児童ポルノ撲滅を訴え、単純所持に罰則を設ける法改正(7月施行)に尽力してきたアグネスに恨みを持つ者である可能性が高かった。
9月23日、滞在先の米サンフランシスコから帰国し、羽田空港で緊急記者会見に臨んだアグネスは、児童ポルノ根絶活動を始めた直後から、毎日のように悪質な書き込みが繰り返されるようになり、7月の施行以降は、さらにそれがエスカレートしたとして、
「(自宅に帰るのが)やっぱり不安です。スタッフがいるから大丈夫だと思うんですが…(犯人には)名乗り出て反省してほしい。ただ、守るべき子供たちがいっぱいいるから、どういうことがあろうと、活動を続けるべきと思う」
だが、翌24日、騒動は急転直下の結末を迎えることになる。なんと、東京昭島市に住む中学3年生の男子生徒が、アグネスへの脅迫容疑で書類送検されたのである。全国紙警視庁担当記者によれば、
「男子生徒は警察の事情聴取に対し、児童ポルノへの特別な持論があったわけではなく、単にネット上でアグネスへの激しい誹謗中傷が起こっていたことでそのネット世論に触発され、軽い気持ちで書き込んだと供述しています。さらに(アグネスが)慈善活動をしているのに裕福な生活をしているのが許せなかった、と。こんなに大騒ぎになるとは思わなかったとして、泣きじゃくるばかりだった」
かねてから日本は世界の中でも規制が緩いと批判され、急務だった「単純所持禁止」が制定された後も、いまひとつ広報が広がらない中で、この事件が大きくクローズアップ。警察幹部からは「いい広報活動ができた」という声も多かったという。
世の中、表があれば裏もあるが、男子生徒にとって大きな教訓になったことは間違いなかろう。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。