たまたま「市川猿之助事件」とタイミングが重なっただけのか、あるいは何か意図するものがあってのことなのか。それが歌舞伎界の重鎮、坂東玉三郎の口から飛び出した、大劇場からの引退を示唆する発言だった。2023年6月6日に行われた記者会見での一幕である。
玉三郎が臨んだ会見は、9月に東京・南青山の音楽ホール「BAROOM」で開催する、セルフプロデュースによる「PREMIUM SHOW」の制作発表。この会場の着席収容人数はわずか100人とあり、玉三郎を身近で感じることができる、まさにプレミアムな公演。それだけに、玉三郎本人も、
「ただお話しするのではなく、歌舞伎の衣裳とかつらを身に着け、化粧をしてトークを行う予定です。お客様も間近で衣裳をご覧になれるので、すごく楽しいと思います」
新たな試みを楽しみにしている様子だった。
玉三郎といえば、東京・歌舞伎座はじめ、常に舞台は大劇場、というイメージがある。だが、かつては江東区の小劇場に出演したこともあり、
「あの時は、私が最前列すれすれのところで演技をしていたので、緊張してしまったお客様もいらっしゃったらしくて。お客様との距離が近い、こういった緊密な空間を非常に大切に思っています」
ところが、報道陣から小規模な会場で公演に臨む意気込みを聞かれた玉三郎は、「私も大劇場で1カ月間、大役を背負い続けることが体力的に難しくなっています。ですからトークと素踊りのように、粛々と芸術的な活動をすることが、私にとっていいのではないかと考え始めていました。小さな空間でお客様が気楽に楽しめる催しを着実に作っていくことが、将来の自分の道だと思います」
どうも聞きようによっては「大劇場からの撤退」ともとれる発言に、報道陣からも驚きの声が上がったのである。
というのも、この時、玉三郎はまだ72歳。休演中ながら大御所の尾上菊五郎、松本白鸚よりは、ぐんと若い。一部メディアからは、猿之助騒動の発端となったとされる「セクハラ疑惑」と、それを彷彿させる、2001年に起こった玉三郎への「セクハラ損害賠償騒動」を関連づける報道が飛び出すことに。
「当時、玉三郎に対し訴えを起こしたのは、19歳の男性とその母。男性は14歳で弟子入りし、1996年5月に性被害を受けたとして、2001年8月に玉三郎を相手取り、1200万円の民事訴訟を起こしました。その後、和解に至っていると聞いています」(ベテラン芸能記者)
つまりは、猿之助スキャンダルによって過去の訴訟騒動再燃を恐れた玉三郎が、大舞台からの引退を示唆したというのだが…。
むろん、現状では憶測の域は出ていない。いずれにせよ、大舞台からの撤退が事実なら、ファンにとっては寂しい限り。今後が気になるのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。