社会

「救急車有料化」悪意に満ちたNHK報道に対抗するのは「NHKが映らないテレビ」全病室に設置

 三重県松阪市が6月から導入した「救急車有料化」システムが、大きな話題になっている。

 これは実際には「救急車要請そのものの有料化」ではない。救急搬送先である、入院ベッド200床以上の大病院に初めてかかる際に患者が支払う「初診料=選定療養費7700円」を、緊急入院する必要のない軽症患者から徴収することになったにすぎない。

 しかも都内の大学病院の相場(乳幼児でも時間外受診すれば、保証金2万円の支払いが必要)と比較すると、7700円の価格設定はかなり良心的と言える。

 原則、医療費が無償の子供でも他院からの紹介状がなければ、大病院を受診する際には選定療養費を支払っており、老人や生活困窮者だからといって支払いを免れるものではない。生活保護受給者は一定の手続きを踏んで大病院を受診するシステムだが、この手続きを面倒がって、いきなり救急車を呼ぶケースがある。

 松阪市内の総合病院ではこれまで、救急搬送患者から選定療養費を徴収しない「温情対応」を続けてきた。外来診察時間に受診した患者からは選定療養費を徴収しているのに、119番さえすれば無料タクシー代わりに病院に運んでもらえる上に、選定療養費を払わずに済むズルが認められてきた。今までが公平性を欠いていたのだ。

 ところがNHKを含む地上波テレビは、どうしても松阪市と救急隊員、救急病院を悪者に仕立て上げたいらしい。露骨なのが「NHK NEWS WEB」の救急医療特集の見出しだ。〈7700円? 軽症なら 助かる命が助からなくなる…〝救急車呼んだら7700円〟の背景〉と、かなり恣意的に煽っているのがわかる。

 助からなかったのは、高齢患者で満床になったことで、病院に運んでもらえなかった幼児の命だ。

 元日の能登半島地震では、被災した石川県志賀町の5歳児が全身熱傷を負いながら大学病院内に入れてもらえず、痛みと高熱に苦しみながら悶絶死した。新型コロナ渦中の2021年8月には、搬送先のない妊婦が早産し、お腹の赤ちゃんが死亡している。

 新型コロナでは、老人ホームに入居中の高齢者が陽性になっただけで「厄介払い」のため救急搬送され、病院ベッドを占領していた。整形外科の専門病院が「入院患者がコロナ陽性になったから、別の病院に移してほしい」と119番通報してくるアキレた事例は、1日に2件や3件では済まなかった。

 コロナ感染が原因ではなく、老衰によって自力で食事を摂ることができない高齢患者も、東京都や大阪府は「コロナ重症患者」「コロナ中等症患者」としてカウント。その数字を根拠に経済活動を制限していたのだから、我々は幽霊に怯えていたようなものである。

 そのせいで、東京消防庁はJR東京駅に配置している、乗客が急病になった際に稼働する予備の救急車2台までフル稼働。それでも2022年12月には都内の救急車稼働率97%と、事実上の「救急体制崩壊」に陥っていた。

 救急搬送依頼と同じ「119番」で稼働している火災通報は、オペレーターに繋がるまで7分を要した。2022年から2023年の冬、都内で大規模火災が起きなかったのは奇跡だった。

 前述した「NHK NEWS WEB」の記事は、救急崩壊については深掘りせず「高齢者の窮状」を延々と報じている。NHK放送文化研究所の調査によると、10代から20代のZ世代の若者は、半数近くが「1週間に一度もテレビを見ない」という結果が出ており、NHKのコア視聴者の高齢者に忖度した偏向報道であることは明らかだ。

 NHKが救急体制崩壊という本質に触れず「救急搬送依頼した患者を軽症と診断した医師のせいで、老人が死んでいく」という印象操作で全国の救急救命医を悪者に仕立てるなら、全国の病院は全病室に「NHKが映らないテレビ」を設置する実力行使に出てはどうか。

(那須優子/医療ジャーナリスト)

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