これぞ、スーパースターや。大谷翔平が日本時間7月17日のMLBオールスター戦で、先制3ランを放った。4年連続4度目の出場で、自身初のホームランとなった。朝からのNHK生中継で、日本中を元気にしてくれた。甘い球ではあったが、一振りで仕留める技術はさすが。前半戦を終えて本塁打29本と打率3割1分6厘はナ・リーグのトップで、69打点もタイトルを狙える数字。打つだけでなく、23盗塁と足でも結果を残している。ケガさえなければ、史上初の「50本塁打&30盗塁」が見えてくる。
本塁打ばかりが騒がれるけど、日本のプロ選手は大谷の盗塁に対する貪欲さを見習わないとアカン。今年のセ・リーグの盗塁王争いは史上最低レベル。トップは阪神・近本だが、85試合でたったの11。このままのペースでいけば、歴代で最も少なかった24個以下でのタイトル争いとなってしまう。僕から言わしたら、30未満は盗塁王の資格はない。投手の最高勝率のタイトルが13勝以上を挙げた選手が対象と決まっているように、盗塁王も獲得の条件をつけてほしい。いくら投手のクイックの技術が上がったといっても、143試合制なら30以下で「盗塁王」を名乗るなんて恥ずかしい。
今のセ・リーグで、僕が認める走り屋は、広島の羽月隆太郎だけ。主に代走での出場で8盗塁(7月17日現在)。相手が絶対に走ってくるとわかっている中でスタートを切れる勇気は大したもの。バッテリーが警戒してないところで走っても金は稼げない。打力をつけてスタメンで出られるようになれば、軽く50盗塁はできるはず。あの足があれば、打率2割5分前後打てるようになれば十分や。前半戦で30個以上をマークし、パ・リーグの盗塁王争いでトップのソフトバンク・周東も打率は2割5分あるかないかやから。
いつも言うように、盗塁を増やす最大の秘けつは、試合に出て、出塁できるようになること。広島はショートで売り出し中の矢野もいい足をしているし、2人がスタメンに並べば、面白い打線になる。
興味深かったのは、7月16日の巨人戦で負けた後の阪神・岡田監督のぼやき。「何回、サイン出しても走らん。何百回言うても変わらん」と、サインを出してもスタートを切らない選手がいることを報道陣に明かしていた。外から見てても、今年の阪神の試合は「何で走らさないのかな」という場面がよくある。アウトになるのをビビって、スタートが切れないんやろな。でも、これでは野球にならん。岡田監督はセーフになる確率が五分五分、もしくはそれ以下でも勝負を仕掛けている時があるはず。アウトになっても叱られないのに、スタートを切れずに叱られるのはバカらしい。
足が武器の選手は常にスタートを切るクセをつけておかなアカン。僕だって、3試合ぐらい出塁できずに久々に一塁に出たら「何かスタート切りにくいな」となった。5度目の盗塁王を目指す近本も今年は打撃不振で出塁回数自体が減っているから、スタートを切ることに臆病になっている部分があるのかもしれん。
「何で走らんねん」とファンは思うことがあるやろうけど、そこはやったものしかわからん難しさがある。それでも走るのが一流のプロ。激しい優勝争いの中で盗塁の価値も増す。走れる選手は、もっと盗塁でファンを沸かしてほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。