社会

決して美談にはならない「元医学部エリート女子夫妻」の「合法的ヤドカリ脱税」指南

 日本はいつから「働いたら負け」「真面目な人ほどバカを見る」社会になってしまったのか。

 この夏、高学歴高年収のエリートたちをザワつかせた記事がある。それが「慶應医学部中退・元外資系のエリート女子が〝経的済弱者″を選ぶ先に見えたものとは?」だ。

 詳細は元記事を参照していただきたいが、慶應大学医学部に通っていた女子医学生が退学⇒ゴールドマン・サックス、メリルリンチと世界3大名門投資会社と呼ばれるモルガンスタンレーに就職⇒出産を機に年収2000万円の港区系女子生活を捨てて千葉県の房総半島に移住、生活費10万円以下のセミリタイア生活を選択した、というものだ。

 この女子の「清貧生活」、実は「最大3000万円の合法的脱税」というカラクリが潜んでいる。

①「ヤドカリ投資」という抜け穴

 元モルガンスタンレー女子の夫妻が月10万円程度で暮らしていけるのは、住居費用がかからない「ヤドカリ投資」のおかげだ。ヤドカリ投資とは「自宅の住み替えを繰り返しながら収益を得ていく不動産投資方法」のこと。外資系投資銀行などで得たノウハウと「金持ちだけが優遇される」日本の税制制度、医学部学生時代、社会人時代に学習した社会保障制度のバグを組み合わせて生活が成り立っている。

 居住用財産を売却して売却益が出た場合、居住年数に関係なく「最大3000万円の特別控除の特例」が受けられる。この特例でまるまる手元に残った3000万円で次に住むための中古物件を買い、3年後に売却する生活を繰り返して資産を増やす投資法だ。

 2020年度の税制改正により、3000万円の特別控除と先述した住宅ローン控除の併用は禁止となり、特別控除は3年に1回しか受けられない。が、例えば第一子が成人するまでの18年間で都合6回、自宅を住み替えれば、最大で1億8000万円の売却益が非課税となる。

 もちろん住み替え先を気に入ってヤドカリ生活をやめ、終の住処にするかどうかは本人の自由だ。

②「住民税非課税世帯」になる不公平

 しかも「住居を売却した利益」最大3000万円の現金があっても、世帯年収220万円を超えなければ「住民税非課税」世帯扱い。住民税は支払わなくて済み、年金や健康保険料は減免、医療費の自己負担学も減免、2歳までの保育園はタダ、小中高だけでなく大学も就学援助や奨学金を受けられる。

 これは「増税クソメガネ岸田内閣」の制度上のバグだ。3000万円の自宅売却益が手元に残るヤドカリ族が非課税なのに、年収220万円以上300万円以下の貧困育児家庭、ワーキングプア世帯は収入の4割を住民税、健康保険と年金などの社会保険料として持っていかれる。

 残り6割から家賃と光熱費、学費を差し引けば、月の生活費は10万円どころか、食費に2万円も捻出できない。常にお腹を空かせている世帯月収20万円以下の貧困児童は子供全体の7%、255万人にものぼっている。

③金持ちジジババが学費を肩代わりしても「非課税」

 そもそも共働き世帯、シングル親世帯は幼い子供を好きで保育園に預けて働いているわけではない。

 生活のために働かざるをえない、そして将来的に高校、大学で学費がかかるから、収入の4割を税金や社会保険料に奪われても働き続けなければならないだけだ。

 この学費についても「金を持っている者」には非課税特権が与えられている。「祖父母から孫への生存贈与の特例」減税だ。

 祖父母から孫への生前贈与は、一定額までが非課税となっている。例えば相続時精算課税制度を活用すると、60歳以上の祖父母や父母が18歳以上の子供や孫に贈与した2500万円までは、贈与税が非課税。教育資金の一括贈与制度を活用すれば、祖父母や父母が30歳未満の子供や孫へ教育資金名目で、最大1500万円の贈与が非課税となる。

 つまり「選択的経済弱者」を装えるのは、もとから息子や娘を進学塾、私立中高一貫校、私立大学に通わさせられる、経済的に恵まれている「太い実家」を持つ若い夫婦に限られた特権ということになる。経済弱者を装い、毎月の収入を抑え、貯蓄などしなくても、子供が18歳になった時に相続税特例制度を活用して、祖父母に非課税1500万円分の学費を肩代わりしてもらえばいい。私立大学医学部の学費は3000万円かかるといわれるが、父方と母方それぞれからの特例制度の活用で工面できる。

 さらに住宅取得資金贈与の非課税特例を活用すれば、60歳以上の祖父母や父母が18歳以上の子供や孫に贈与した住宅資金1000万円も非課税となる。これも祖父母から孫への住宅取得資金贈与の特例を活用し、1000万円以下の優良中古物件を買えば、現行の金持ち優遇税制が存続する限り、祖父母、親、子へと非課税のヤドカリ投資は無限に続けられる。

④正規雇用は「非課税」、非正規は「課税」の格差拡大

 さらなるカラクリが「育児休業給付金」制度だ。これは正規雇用の特権で1年間の育休を取った場合、勤務先から支払われる休業給付金は非課税扱いになる。休職前の5割から7割の休業補償をもらえるので、年子で産み続ければ2年、3年は給付金だけで生活できる。

 元モルガンスタンレー女子夫妻が完全なるリタイア生活、FIRE(早期退職)ではなく、育児期間中に区切ってセミリタイア生活を送っているのは、同制度を活用しているからだ。

 一方で、20代の23.2%を占める非正規雇用者が育児休業を取りたくても、「1年間休みたい」と言えばクビを宣告されるのがオチ。たとえ休業を認めてもらったところで、1円も払われないない。その間も収入の4割を占める国民健康保険料、年金などの社会保険料を払い続けねばならず、払えなければナケナシの生命保険や個人年金の金融資産を差し押さえられる。若者の4分の1、40代から50代のロストジェネレーション世代、氷河期世代の6分の1が非正規雇用なのだから、結婚や出産なんて無理ゲーだ。

 そももそ医学部受験で女子学生が合格基準点に達していても不合格になる「差別」をされてきたのは、中途退学する女子学生、結婚出産で退職する女性医師が多いから。

 もしポリティカルコレクトネスや多様性に配慮し、男女平等で男子学生、女子学生の比率を1:1にして、ヤドカリ投資を真似する医学部中退女子学生だらけになったら、全国の病院で医師不足が起き、医療制度は破綻する。

 逃げ得女子学生の「前例」がこうして存在する以上、女子学生には酷だが、各大学医学部に合格者の男女比率、合格基準や入試制度の裁量権を持たせるべきだろう。

 ズルい金持ちと政治家にだけ手厚い「合法的脱税」が用意され、カネを持たざる者は永遠に「増税内閣」による貧困の無限地獄から抜け出せない。

 猛暑だけのせいではない。この国は真面目に働く者にとって、灼熱地獄なのだ。

(那須優子)

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