「完全にアウトだと思いました」
岐阜城北の一塁手・青木琉生の確信は、わずか数秒後に覆された。
8月7日に行われた全国高校野球選手権「智弁学園×岐阜城北」の1回戦。岐阜城北が1点リードの9回一死一・二塁で、智弁学園の打者の内野ゴロは、併殺かと思われた。打者走者は果敢にヘッドスライディングし、判定はセーフ。試合は延長11回タイブレークに突入し、最後は智弁学園の逆転勝利となった。
おそらく智弁学園のほとんどの選手は、併殺で試合終了を覚悟したに違いない。誰の目から見ても明らかなアウトだったが、審判の判定はどういうわけか「セーフ」。これにはスタンドの応援団も納得がいかなかったようで、「高校野球にもリクエスト導入しろよ」「さすがにこの誤審は酷すぎる」などといった声があちこちで湧き上がった。
むろん審判のジャッジが「絶対」であることが大前提とはいえ、プロ野球と違い、負けたら優勝を目指して努力してきた1年間がその場で終了するのだから、選手はやりきれない気持ちだったのではないだろうか。
ではなぜ、高校野球にはリクエスト制度が導入されないのだろうか。プロ野球では昨年、セ・パ会わせて548回のリクエストがあり、成功131回、成功率は23.9%。高校野球に導入されれば、展開が変わった試合はかなりの数に上るかもしれない。
これまで甲子園での疑惑の判定は、幾度となく問題になってきた。しかし高野連は、賛否は半々としながらも、地方球場にはカメラ設備がないことなどを挙げて「同一ルールの上で高校野球をやりたい」という理由から、導入は困難としている。
もっとも、2023年からはネットサイト「バーチャル高校野球」で、全試合がライブ配信されるように。場合によっては、その映像を使用することもできようが…。
甲子園の審判はあくまでも「ボランティア」。なり手は年々減少しており、高齢の審判に頼らざるをえないところも出てきている。その上、誤審を疑われて批判に晒されてしまっては、いよいよ高校野球そのものの存続が脅かされることになるだろう。
開幕試合の始球式を行った元巨人の江川卓氏は自身のYouTubeチャンネルで、こう言っている。
「人生のなんかこう、めぐり合わせというのかな。高校野球はそれでいい感じがするんですけど。自然で」
リクエスト制度の導入には、反対の姿勢を示している。江川氏と同じ意見の野球ファンは少なくないだろう。
今後は時代の趨勢として、ビデオ判定はおろか「ロボット判定」が出てくることが予想される。いずれ高校野球の審判にも、なんらかの変化が訪れるのではないだろうか。
(ケン高田)