サッカーのベルギーリーグ1部のシント=トロイデン(STVV)が、6月に就任したばかりのクリスティアン・ラタンツィオ監督の解任を発表した。
STVVといえば、パリ五輪で活躍したGK小久保玲央ブライアン、MF藤田譲瑠チマ、MF山本理仁をはじめ、日本代表のDF谷口彰悟、DF小川諒也、MF伊藤涼太郎が所属。
この6人の日本人がチームの中心で、全員が先発出場することは珍しくないが、今季は第6節を終えた時点で16チーム中15位(0勝3敗3分)と絶不調。まるで期待外れなのである。
特に守備陣は第2節のシャルルロワ戦で4失点、第3節のアントワープ戦で6失点を喫するなど、リーグワーストの15失点と崩壊状態だ。
結果が出なければクビを宣告されるのは、サッカーの世界ではよくある話だが、実際には「特殊」なチームゆえに、イタリア人指揮官に同情の声が多い。
欧州に詳しいサッカーライターが内情を説明する。
「STVVは、2017年に日本のECサイトを運営するDMMグループが経営権を取得。立石敬之CEOや日本人幹部らが運営していて、Jリーグで活躍した選手を次々と〝青田買い〟しています。ベルギー選手より日本人選手を優先して起用するのはなかば暗黙の了解ですが、勝利優先の監督とコミュニケーション不足で意見が対立することがしばしばあり、その結果、17年-18年シーズンから今回のラタンツィオ氏まで9名の監督が交代(暫定監督1人含む)しています。これは欧州クラブの中でもかなり多い方で、打診されても受けたがらない監督がいると聞きますね」
地元サポーターにとっては、チームが日本人選手だらけでおまけに勝てないとなれば、複雑な心境になるはずだ。
しかし一方で、欧州5大リーグで活躍する日本人選手のステップアップの場として、STVVの功績が大きいのは事実だ。
現在、世界最高峰のプレミアリーグ(イングランド)に所属する日本代表プレーヤーたち、DF冨安健洋(アーセナル)、MF遠藤航(リヴァプール)、MF鎌田大地(クリスタル・パレス)、昨シーズンに降格したルートン・タウンFCのDF橋岡大輝らは全員、STVV出身なのだ。前出のサッカーライターが解説する。
「かつては、STVVに移籍したところで日本人選手が多すぎるため、個人のレベルアップにつながらないという意見がありました。しかし、最近はまず『欧州のマーケットに自分の名前が知られること』が大事だという認識が強くなっていますし、名門クラブではなくても、ベルギーリーグは欧州5大リーグのスカウトマンが頻繁に視察に来るので、日本の若手選手が好んでSTVVに移籍するようになったんです」
とはいえ、チームの成績が悪ければスカウトマンの情報網に引っ掛かりにくくなってしまうのは当然の流れ。
開幕スタートに失敗、監督が解任という厳しい状況の中で「日本人軍団」は巻き返しに成功し、選手たちがビッグクラブへの足掛かりをつかめるのか。リーグ戦中断明けのSTVVの試合に注目したいところだ。
(風吹啓太)