暖かい海に生息し、獲物を見つけると静かに背後から近づいて、鋭利な歯でガブリ。あとは強靭な顎で相手の体を振り回しながら、ガツガツ食いちぎっていく。多くの人がサメに持つイメージは、だいたいそんなところではないだろうか。そして当たり前だが、彼らの生息環境は海水だ。
ところが、である。淡水湖に生息する3メートル級の「人食いザメ」がいるという。中米のニカラグア共和国にあるニカラグア湖で古くから目撃され、数年に一度は湖周辺で人間の被害事例が報告されるのが、レイク・ニカラグア・シャークだ。
ニカラグア湖は、南米最大のチチカカ湖に匹敵する広大な淡水湖で、塩分が少ないことから、地元では「甘い海」と呼ばれる。水深は最大でも70メートルほど。ニカラグア湖の水はカリブ海へと注がれているが、人食いザメがこの淡水湖に住みついていると言われ始めたのは数百年前だ。
研究者は当初、その昔、湾だったこの湖に閉じ込められてしまったサメが、塩水から淡水でも生きていけるよう、徐々に生態を適応させたのではないかとみていた。ところが近年の研究で、実はこれがオオメジロザメであることが判明したという。
オオメジロザメはメジロザメ属の中でも大型で、体長3メートル、4メートル級の個体が少なくない。太平洋やインド洋、大西洋の熱帯から亜熱帯の海域に分布しており、湖などの淡水域にも出現している例がある。
洪水に見舞われたオーストラリア・クイーンズランド州にあるゴルフクラブのコース内の池に、近くの川から流されてきたオオメジロザメが住み着いたことも。海水、淡水問わず、どんな環境でも生息できる特性を持つサメとして知られる。
とはいえ、いくら淡水に適用できるサメだとしても、ニカラグア湖から最も近い海までは100マイル (約160キロ) 以上の距離がある。本当にオオメジロザメだったとしたとしても、疑問は残る。水棲生物研究家が語る。
「実はこのサメは北米からメキシコのウスマシンタ川流域、さらに奥まった3000キロ近く離れたミシシッピ川上流でも発見されています。つまり、160キロ程度を泳ぎ切ることは難しくない。ただ、暖かい浅瀬を好むため、深さのない川や湖に生息している可能性が高く、必然的に陸に住む動物がエサになる場合もあるようです」
つまり、絶対にサメなど現れない湖の浅瀬で体長3メートル級の殺人ザメに出くわす可能性があり、「サメ界のUMA」などと呼ばれるのも納得なのである。
(ジョン・ドゥ)