まずはテナントが入ったショッピングセンターの入り口や、店付近などに女性店員を配置。ターゲットとなりそうな若い男性が通りかかると、おもむろに「お兄さ~ん、お兄さ~ん」と声をかける。むろん素通りする男性は多いが、そんな場合は「お兄さ~ん、すみませ~ん」と、さも大事な用件があるかのように声をかけ立ち止まらせる。そして数点のダイヤモンドネックレスなどが写ったされた写真を見せ、どのデザインが優れているかを選ばせる「デザインアンケート」なるのもを実施。
男性が興味を示すと別の女性店員が半ば強引に店内へと連れ込み、「購入しても5年後には購入時と同額で買い戻しますよ」を謳い文句に、安価なダイヤモンドを高額で販売する。これがココ山岡宝飾店の営業方法だった。
実に巧妙な手口を考えたものだが、この会社、1967年に神奈川県横浜市元町に店を構えた当初は、まっとうな貴金属・宝石類の販売店だった。しかし全国チェーン展開を目論む中、欲が出たのか、先に触れた販促マニュアルを作成。テレビのクイズ番組などにもタダで賞品提供を行うなどして、その知名度を全国的に押し上げた。
だからこそ、1997年1月に債務超過で自己破産を申し立て、98あった全店舗が閉鎖した時には、購入者らはまさにキツネにつままれた状態になった。
負債総額およそ526億円というこの突然の破産劇を機に、大規模詐欺事件の全貌が、しだいに明らかになっていくことになるのだった。
同社のターゲットは、恋人や結婚を意識した相手に指輪を送りたいが、なかなか購入に踏み切れない若い男性。「5年後の同額買い取り」という言葉を信じてローンを組まされたものの、破産によって、買い戻し不能となってしまった。
そこで被害者はダイヤを質屋などに持ち込んだものの、購入時にココ山岡が発行していた「ダイヤモンド鑑定書」は独自のものであり、世間一般の鑑定とは大きな開きがあった。つまりは価値の低いダイヤモンドを購入し、多額のローンだけが残ってしまったのである。
ココ山岡は経営難であることを認識しながら、買い戻し特約付きでダイヤモンド販売を行なっていたことが詐欺罪にあたるとして捜索を受け、元副会長や元社長らには一審、二審、三審ともに有罪判決が下った。
1万人近い被害者は信販会社などに対し、クレジット未払金の債務不存在確認と既払い金の返還を求めて提訴。こちらは2000年11月に弁護団により、なんとか未払金債務の全額免除と、信販会社への既払い金の約4割にあたる25億円の返還を受けて和解が成立した。
ただ、そこに至るまで支払いに困窮し、そのままサラ金地獄に落ちていった若者は少なくなかったと聞く。「買い戻し商法」「クレジット商法」の怖さを改めて世間に知らしめる事件となったのである。
(丑嶋一平)