シニア世代に人気の音楽イベント「昭和歌謡コンサート」。年間200公演を達成する大盛況の裏側で、補助金の不正受給やCD売上金の過少申告といった〝疑惑のマネー〟から、本番30分前まで出演者に対して怒号を浴びせるパワハラの実態が明らかに。私腹を肥やす運営者に利用され尽くした当事者が悪辣被害を激白する。
「知らない間に、補助金詐欺の片棒を担がされていたことに気づいたんです。このままではお客様を裏切ることになると思い、24年12月に東京簡易裁判所に調停申し立てを行いました」
決心した表情で重い口を開くのは、「歌声カルテット」(24年10月にTHEカルテットに改名)の元メンバーで、バイオリニストの西垣恵弾氏である。
歌声カルテットはクラシック歌手2名、ピアノ、バイオリン奏者の計4名で構成され、音楽イベント「昭和歌謡コンサート」のために、西垣氏がオリジナルメンバーを集めた。コロナ禍の21年10月に公演をスタートし、関東を中心に3000人を超える規模の各自治体のホールで開催してきた。懐かしの名曲から、長く愛される唱歌や童謡を演奏し、08年のNHK紅白歌合戦に出場した歌手の木山裕策(56)が出演することもあり、23年には年間200公演を達成。年間で延べ10万人を動員している。
コンサートをきっかけにシニアの外出機会を創出し認知症を予防する目的もあって、毎日新聞社や認知症予防財団も後援していた。
ところが、その内実は穏やかなものではなかったのである。昭和歌謡コンサートを主催・運営している株式会社マイソングエンタテイメント(以下、マイソング)の青木正利代表取締役に対し、西垣氏は憤りを隠さない。
「22年4月頃、青木氏から『歌声カルテット実行委員会』の名義で新規口座を作るように協力を求められました。あとでわかるのですが、文化庁のAFF(ARTS for the future! ※コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)の補助金をもらうのが目的で、私を代表者にして口座を作らせたのです。手続き後に青木氏から、マイソングの女性従業員(以下、X氏)を口座の管理者および利用者として、銀行に届けるように指示されました。通帳とキャッシュカードもX氏に預けるように言われたんです。歌声カルテットの活動に必要だと説明されたので、特に疑いませんでした」(西垣氏、以下「」は同)
ちなみに、歌声カルテットはマイソングの所属タレントではなく、委託契約を結んでいると、西垣氏は説明する。
「青木氏は歌声カルテットとして別のイベント出演を許しません。ソロで出演する際は、昭和歌謡コンサートのスケジュールを優先しないと激怒した」
そのため、メンバーの生活は必然的に昭和歌謡コンサートが中心になり、青木氏に頼まれれば断れない〝主従関係〟が成り立っていた。その上で、メンバーが青木氏に不信感を募らせる事態が発覚したのだ。
「23年の夏に日野税務署から私に連絡があった。私の名義で作った『歌声カルテット実行委員会』が文化庁の補助金の600万円を受給し、ほぼ全額使い切り、団体を閉じた理由を説明するにように求められたのです。でも私は通帳とキャッシュカードを渡していたので、口座の入出金に一切関知していないし、団体を設立したことも知らなかった。慌ててX氏に税務署の件を聞くと、『自力での経営が不可能なので会社を閉じました』と、そう説明するように指示されたのです。そこで、不正受給に加担させられたことに気づきました」
体をなした団体として補助金を受給するため、代表者の西垣氏だけではなく、副会長、会計、総務に歌声カルテットのメンバーの名前が勝手に使われていたという。
巻き込まれた西垣氏は、通帳を確認するために「もともと私の通帳だし、自分で処分したい」と、口実を作って返還を求めた。
「郵便で届いた通帳には、文化庁から2回にわたり、計600万円が振り込まれた記録がありました。私の団体が主催したとされるコンサートの売上金もあり、青木氏らに決算書を出させたら、400万円の利益が出ていることが判明。黒字なのにどうやって団体を閉じたのか、補助金の600万円を何に使ったのか。質問してもごまかすばかり。腹立たしいのは、通帳に付箋が貼られ、『636円残ってますが、西垣さん取ってください。』とのメモ書きで、完全にバカにしてきたのです」