阪神淡路大震災から30年の節目に、史上初の満票獲得とはならなかった。日本の野球殿堂博物館は1月16日、日米通算4367安打のイチロー氏の殿堂入りを発表した。資格1年目での殿堂入りは松井秀喜氏、金本知憲氏以来、7年ぶり7人目の快挙だったが、物議を醸したのが獲得票数だ。
投票資格を持つベテラン記者が投じた有効投票数349票のうち323票、得票率は史上6位の92.6%にとどまった。26人の記者が、稀代の安打製造機に投票しなかったことになる。
これにはゲストスピーカーの王貞治氏が「中にはヘソ曲がりがいる」とバッサリ。世界の王ですら、殿堂入りした際の得票率は史上5位の93.2%だった。1位のスタルヒンでも97.3%、史上10位の長嶋茂雄氏は90.1%だった。
誰がイチロー氏に投票しなかったのか。
投票資格があるのは東西の野球記者クラブに所属し、15年以上の野球取材経験がある約350人の記者。1人につき7人の名前を書くことができる。メジャーリーグと同じく記名投票制だが、誰が誰の名前を書いたかは非公開。しかし、自分が番記者の球団以外の選手には投じない、ライバル球団には絶対に投票しないというポリシーを公言しているベテラン記者もいる。
3度の本塁打王に輝いたミスタータイガース、掛布雅之氏も阪神以外の11球団の番記者からの支持を得にくかったのか、1988年に現役を引退してから36年後の昨年は、あと2票足りず。阪神が創設90周年を迎える今年、得票率76.6%でようやく殿堂入りを果たした。日本プロ野球界への貢献よりも、個人の好き嫌いと贔屓球団選手を優先するベテラン記者がいる以上、今後も満票を獲得する人物は現れないだろう。
イチロー氏は現役時代、報道陣にとった態度が不遜だったと評価され、嫌っている記者がいるのかもしれない。なにしろ、
「試合前の集中力がそがれる」
「くだらない質問が多い」
「投手との真剣勝負をしている以上、打撃についての質問は僕の全試合、全打席を見て、何が違うのかを指摘して下さい」
そう番記者に要求。両耳のイヤホンからヒップホップを大音量で流しながら記者の質問を遮って、球場入りしていたのだ。ところがベンチ裏では、
「テレビの中継は阪神戦ばかり。どれだけ打てば(被災地の)神戸とオリックス戦を取り上げてくれるのかな」
「野球をしたくて男子校に進んだけど。共学校で女子に注目される高校生活も送ってみたかった」
などと人間臭いことも呟いていたのに。当時の態度を今も根に持っているベテラン記者は、どれだけいたのだろうか。
メジャーリーグの野球殿堂は、日本時間の1月22日に発表される。米専門チャンネルに投票選手名を明かしている記者160人は全て「イチローに投票した」と明かしており、今のところ得票率100%。殿堂入りに必要な得票数の4割を獲得しているが、メジャーリーグのベテラン記者は個人の感情、アジア人ヘイトを抜きに、その実績を評価してくれるだろうか。
(那須優子)