埼玉県八潮市の幹線道路で発生した、巨大下水管損傷による道路陥没事故は、社会に大きな衝撃を与えた。なにしろ「同様の事故は全国どこででも起こりうる」と言うのだから、気が気ではない。
ところが今、その道路陥没事故より恐ろしい「水道水汚染」による深刻な健康被害が、全国レベルで秘かに広がり始めている。鉛管(鉛製給水管)から供給される水道水に溶け出した鉛成分による「鉛中毒」だ。
人体に取り込まれた鉛成分は、体外に排出されにくい。そのため鉛成分を含んだ水道水を飲み続けると、鉛成分が長い年月をかけて体内に蓄積されていく。
その結果、どうなるか。頭痛、腹痛、食欲減退、倦怠感などの初期症状を経て、吐き気、下血、神経マヒ、歩行不能など、次第に重篤化していく。場合によっては「死に至る可能性もある」というから恐ろしい。
浄水場からつながる給水管のうち、鉛管は「幹線部分」と「各家庭などへの枝分かれ部分」に使用されている。国は2004年から鉛管の早期全廃に乗り出したが、日本水道協会の調査によれば、日本全国における鉛管の残存件数は2023年3月時点で「約203万件(上水道の契約数ベース)」にも上っていることが明らかになったのだ。
そして案の定、この間には重篤な健康被害が報告されている。全国紙の社会部記者が、その一端を明かす。
「西日本地方に住む30代の男性の場合、倦怠感や吐き気や下血など原因不明の体調不良を訴えて病院に駆け込んだところ、血液中の鉛濃度が平均値の約100倍にも達していることが判明しました。自宅アパートの水道水からは、基準値の40倍を超える鉛成分が検出されました。この男性は立ち上がることもできない状態に陥ったため、緊急入院。退院後も両手の痺れや倦怠感などに悩まされたといいます」
これは氷山の一角にすぎない。多くの専門家が指摘するように、表面化していない健康被害は数多く存在するとみられている。一刻も早い「鉛管の全廃」が求められるのだ。
(石森巌)