名越 19年、金融庁の報告書をきっかけに「老後資金が2000万円足りない」ということが話題になりました。
荻原 最近では「4000万円不足」という専門家も出てきましたが、ハッキリ言ってテレビ局のヤラセです。2000万円ではインパクトが弱いから、そういうことを発言する専門家を探してきただけです。
名越 では、どれくらい用意すれば、老後も安心して暮らせるでしょうか。
荻原 現金で1500万円あれば十分です。家のローンも終わって子供も巣立っているなら夫婦2人で毎月20万円もあれば困りません。それなのに国は「お金が足りなくなる」と言っています。65歳以上を脅かしすぎです。
名越 65歳以上の人を煽る理由は、この本にある通り「投資に誘い込みたい」からですか。
荻原 それも一理あるかもしれません。でも65歳以上の人が投資するのは絶対にダメです。特にマジメに働いていたサラリーマンは、やらない方がいい。経済的に40年以上もノーリスクの生活を送ってきたのに、65歳からリスクのある生活をしろと言ってもムリです。
名越 最近は「新NISA」を多くの人が始めているという話題を耳にするようになりました。
荻原 「新NISA」で儲けるなんてありえません。「長期投資は大丈夫」という話は大ウソです! 今から5年前にロシアとウクライナが戦争すると予想した人は1人もいませんよね。予想できない長期の物事を、政府が大丈夫と言える根拠が知りたいです。65歳以上に「長期投資をしろ」と言っても、その間に死を迎える人だっているわけですからね。
名越 荻原さんがオススメする投資先は、ないということですね。
荻原 ありません。断言しますが「投資はギャンブル」です。口が酸っぱくなるくらい言っても理解してもらえないんですけど、65歳以上は間違いなく関わらない方がいいです。投資は自分が思った時にヤメられない。株価が下がっても、元に戻るんじゃないかと思って、なかなか解約できないんですよ。
名越 素人は損切りがなかなかできませんからね。
荻原 そうなんです。でも、どうしても投資したいなら、損しても困らないお金でやることですね。
名越 つまり65歳以上は、お金を増やそうとしない方がいいみたいですね。
荻原 増やすことより、死ぬまでに使うことを考えるべきです。まず、子供に残すことはヤメましょう。家庭裁判所で争われている遺産相続の案件のうち、3割が1000万円以下の案件です。
名越 そんなに多いんですか。もし裁判沙汰になったら子供たちの仲はこじれますよね。
荻原 もう一生、仲よくなれませんよ。親の一番の願いは、子供たちが仲よく助け合うことなのに、争っていたら意味がありません。それならば、生きているうちに家族旅行や皆でおいしい食事をする方にお金を使うことが幸せだと思います。
ゲスト:荻原博子(おぎわら・ひろこ)1954年、長野県生まれ。経済ジャーナリスト。大学卒業後、経済事務所勤務を経て独立。経済の仕組みを生活に根ざして解説する、家計経済のパイオニアとして活躍中。「投資なんか、おやめなさい」「知らないとヤバい老後のお金戦略50」「年金だけで十分暮らせます」など著書多数。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「独裁者プーチン」(文春新書)など。