名越 安倍晋三元首相が進めた「アベノミクス」はどうお考えですか。
荻原 あれが日本をメチャメチャにしました。アベノミクスの根幹である「3本の矢」のうち、財政戦略と成長戦略がダメで、実質は金融政策1本だけでした。
名越 ゼロ金利政策は当初2年間のはずでしたが、10年続きました。
荻原 そのせいで日本経済はフラフラになってしまい、日銀が金利を少し上げようとしただけで株価が暴落しました。この後始末は大変です。
名越 その間に消費税は5%から10%に上昇して、今では税収の柱となっています。
荻原 現在の日本の税収は絶好調です。これまで私たちはコロナ禍で本当に苦しめられました。現在は物価高でも大変な思いをしている。その間、日本の税収は過去最高を更新し続けてきたんです。これはいったい、どういうことなのかと怒りに震えます。
名越 成長産業が出てこなかったことも、不景気の理由の1つでしょう。
荻原 原発や新幹線を外国に売り込むといった話はありましたが、すべて失敗しました。本当に日本が新しい成長産業を持とうと思うなら、11年3月の東日本大震災の時に、日本の技術力のすべてをつぎ込んでほしかった。そうしていれば今頃、省エネの分野で世界屈指のトップランナーになっていたはずです。
名越 結局、日本は原発のエネルギーに頼る形に戻ってしまいました。かつて、冷戦時代は日本のソニーが強かったですが、冷戦後のデジタル化の波に完全に乗り遅れましたね。
荻原 政府が未来をまったく読めていないからです。もし震災直後、日本が新しいエネルギーの分野を開拓して世界の最先端を走っていたら、若い人たちにもワクワクするビジネスですから、やりがいを持って取り組んだろうなと思います。それらを全部潰した日本のバカさ加減には、ウンザリする思いです。
名越 ところで荻原さんは、フェイスブックで〝なりすまし被害〟にあわれたそうですね。
荻原 「荻原博子がすすめる投資」がある、と知り合いから連絡があったんです。それで急いで調べてみたら、300人以上もの荻原博子が見つかった。もう本当に恐ろしい時代です。
名越 それは違法ですね。
荻原 でも、取り締まりきれないのが現状です。私はSNSを一切やっていませんし、投資を勧めることは絶対にありません。なのでアサ芸読者の皆さま方も、どうかご注意ください。
名越 投資を勧めている財務省や金融機関などからは、荻原さんへの批判はありませんか。
荻原 それは全方位的にあると思います(笑)。でも、中には良心を持った人もいますからね。
名越 今日は有意義なお話を聞かせていただき、参考になりました。
荻原 お金は生きている時に楽しんで使いましょう。
ゲスト:荻原博子(おぎわら・ひろこ)1954年、長野県生まれ。経済ジャーナリスト。大学卒業後、経済事務所勤務を経て独立。経済の仕組みを生活に根ざして解説する、家計経済のパイオニアとして活躍中。「投資なんか、おやめなさい」「知らないとヤバい老後のお金戦略50」「年金だけで十分暮らせます」など著書多数。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「独裁者プーチン」(文春新書)など。