「65歳からは、お金の心配をやめなさい 老後の資金に悩まない生き方・考え方」荻原博子/1100円・PHP新書
今や「老後資金は4000万円」「投資をしないと損」など、高齢者をやたらと煽る情報が飛び交っている。しかし、経済ジャーナリストの荻原博子氏は「60歳を過ぎてお金の心配は無用!」と一喝。では、老後の正しいお金の使い方とは―。
名越 これは65 歳以上の高齢者に安心感を与えると同時に、勇気づける本だと思いました。
荻原 ありがとうございます。
名越 団塊の世代がいかに恵まれていたかもよくわかります。
荻原 特にすごいと思うのは、ずっと給料が上がり続けてきた時代に働いていたことです。だから、一番高い給料で換算した退職金と年金をもらっています。
名越 彼らが現役の頃は、物価も安かったですよね。
荻原 はい。だから若い頃に家を買うことができました。鎌倉に50坪の家を買って、それが今では、億を超える価値になっている人もいます。それから教育費も安かったです。
名越 確かに、国立大学なら1970年頃の学費は年間で1万2000円でした。
荻原 今は国立大学でも50万~60万円以上かかりますから、時代が全然違います。
名越 実は荻原さんと私は、団塊の世代よりも少し下の同世代です。
荻原 そうでしたね。
名越 とにかく団塊の世代は人が多い。彼らが生まれた当時は、年間の出生数が約270万人ですから、会社でも先輩だらけで、苦労させられました(苦笑)。
荻原 我々の世代が一番迷惑したかもしれませんね。団塊の世代は戦後の荒廃から這い上がってきました。だから、何か全部自分たちで日本を作り上げたとカン違いしているんです。
名越 実際は違うということでしょうか。
荻原 当時、高度経済成長期で、単に国の枠組みに沿っていただけ。彼らはみんなエスカレーターに乗って順調に上に昇ったにすぎません。それで大多数が幸福をつかんでいます。
名越 彼らが日本をよくしたかもしれませんが、悪くした面もありますね。
荻原 例えば自分の子供に「お前も俺と同じように努力すれば、家の1軒くらい買える」と言うそうですが、あなたがエスカレーターに乗っていただけでしょうって(笑)。親にプレッシャーをかけられるせいで、団塊ジュニアはノイローゼになる人が一番多い世代だと言われています。
名越 団塊の世代が減れば、かなり風通しがよくなるかもしれません。
荻原 結局のところ、団塊の世代はまったく貧乏ではありません。それどころか、日本の一番よい時代を駆け抜けた人たちだと思います。
名越 まさに本のタイトル通りに「お金の心配をやめなさい」と伝えたい世代なわけですね。
荻原 はい。その通りです。
ゲスト:荻原博子(おぎわら・ひろこ)1954年、長野県生まれ。経済ジャーナリスト。大学卒業後、経済事務所勤務を経て独立。経済の仕組みを生活に根ざして解説する、家計経済のパイオニアとして活躍中。「投資なんか、おやめなさい」「知らないとヤバい老後のお金戦略50」「年金だけで十分暮らせます」など著書多数。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「独裁者プーチン」(文春新書)など。