プロ野球のセ・パによる「交流戦」が来週から始まるが、本誌は現代のヒーローVS伝説のスターという、決して交わることのない「夢の交流戦」を実現。プロ野球や大相撲、アイドルからAVまで、各ジャンルの有識者による時空を超えた「10番勝負」をお届けする。
ヒザ元の「スライダー」が決まれば王さんでも三振
長嶋さんは外角低めのフォークをセンター前へ
今をときめく球界のエースVS往年の名選手。両者が対戦したら、どちらが勝つのか。ダルビッシュVS王貞治、イチローVS江夏豊、そして、田中将大VS長嶋茂雄。プロ野球「夢の3番勝負」を、元巨人のエースでプロ野球解説者の槙原寛己氏がシミュレーションする!
王さんを打ち取るためには、追い込んだらインコースの膝元を狙えというのが鉄則でした。王さんのライバルといえば、江夏さんが有名ですが、“王キラー”だった名投手は、そうやって王さんの打棒を抑えていたんです。
ダルビッシュは速球投手です。中でもすばらしいのは、スライダー系の球。追い込んで足を上げたところへ、スライダーを落とす、というのが私の見方です。
ダルビッシュの過去5年の成績は07年15勝5敗(防御率1・82)、08年16勝4敗(1・88)、09年15勝5敗(1・73)、10年12勝8敗(1・78)、11年18勝6敗(1・44)と驚異的。中でもスライダーの空振り率は18・64%、被安打率0・102%、フォークの空振り率18・87%、被安打率0・188%とトップクラスだ。
初球はまずカーブから入ってくる。王さんはこれを見逃す。2球目はインコースの膝元を狙って速いボール球を投げる。インコースを意識させるための球です。ま、振ってくれればいいですが、選球眼のいい王さんは見送りますね。
続いて3球目は外角へツーシームを投げる。ツーシームは左右に微妙に動くストレート。ツーシームを外へ投げておけば長打にはなりにくい。王さんはこのツーシームをファウルします。4球目も外へツーシーム。が、ボール。これでカウントは2─2です。
で、5球目にまっすぐと同じような軌道のボールになるスライダーを膝元へ落とす。ダルビッシュが狙いどおりに投げられ、王さんが振れば三振に打ち取ることができるでしょう。
しかし、見逃されて2─3になると、ダルビッシュは不利。投手心理としてフォアボールを出したくないあまり、6球目はストライクを取るために甘いボールを投げてしまうかもしれないからです。王さんは現役時代、絶対に甘いボールを見逃しませんでしたからね。スライダーが甘く入ると一発を食らうでしょう。
ですから、この勝負の分かれ目は「5球目」です。
現役時代、剛速球と抜群の制球力で球界屈指の名投手と呼ばれた江夏。1シーズンで401奪三振、オールスター戦での9連続奪三振は今も語りぐさになっている。しかも、抜群の制球力でストッパーとしても活躍した。その江夏はイチローを抑えられるか。
江夏さんはコントロールが抜群でしょ。イチローにヒットを許さないためには基本的に外角低めを攻めていくと思います。1球目から外角低めに球を集め、2球目も外角のカーブ。イチローはヒットを打つ名人ですが、江夏さんのこの攻めに対して、腰を引きながらボールにバットを当てて、サードゴロに打ち取られるのではないでしょうか。
マー君とミスターこと長嶋との対決も興味が尽きない。
田中の武器は低めに投げるスライダーと、外の低めのまっすぐです。初球は外角低めのストレートでしょう。ミスターはこれを見逃して、例によって、ウンウンとうなずいて見せる。
2球目はインコースのボール球。ミスターはのけぞりながらこれを見逃す。3球目も内角攻め。田中はミスターの動揺を誘おうとしてインハイに速い球を投げる。ところが、ミスターはこれを振り切り、三塁線にものすごい当たりを見せる。かろうじてファウルになったものの、ヒットなら二塁打になったところです。
インハイの球をガツンとやられて、たじろぐ田中。やはり、外角へ投げないとやられると、外へスライダーを投げるのですが、それは外れてボール。これでカウントは2─2です。
5球目は外角低めにフォークを投げる。ミスターはワンバウンドになろうかという球をみごとに捕らえ、センター前に運ぶでしょう。ウイニングショットをしとめるのが得意なミスターらしい一撃になる。それが私の読みです。
伝説に残る名選手は、一度やられたら同じ轍は絶対に踏みません。ことにONという野武士的な選手は、相手の失投を見逃すことはありませんでした。相手投手にとっては、勉強することばかりです。