5月18日早朝に、全国のATMから総額約18億6000万円が不正に引き出された。事件から1カ月がたったが、末端の“出し子”が逮捕されただけで、犯行の全容はいまだ解明されていない。1人の「カード偽造犯」が事件への関与と不敵な内幕を暴露した。
「これまで1万枚以上の偽造カードを作成してきました。あの件でも自分を経由したカードが使われたはずです」
こう語るのは、長年クレジットカード犯罪に関わってきたA氏。そして彼が関与をほのめかすのが「18億円事件」だ。A氏が続ける。
「いまだにガードの緩い磁気型のクレジットカードでATMから多額の現金が引き出せるのは日本くらいでしょう。海外ではICカードが一般的ですからね。つまり日本は今、世界中からカード詐欺の標的になっているんです」
今回の事件で大量に偽造されたのは、南アフリカの銀行が発行するクレジットカード。その顧客情報が「空カード」と呼ばれる白色無地のカードに書き込まれ、犯行に使用されたと見られている。
「磁気カードの裏面には黒いラインが入っています。この部分に情報を刷り込むわけです。極端な話ですが、レンタルDVDショップで使うカードの情報を書き換えて、誰かのクレジットカードに化けさせることもできます。しかも、書き換えに必要な機械は、中国製なら10万円ほどで手に入ります。それとノートパソコンがあれば、どこでも偽造や変造が可能で、実際、私の自宅周辺に警察の影がチラついていた時などは、ファミレスに機械を持ち込んで偽クレカを量産していました」(A氏)
安価な機械で作っただけに、“不良品”が出るのも珍しくないという。
「バグが出たカードは、ATMに入れるとそのまま飲み込まれてしまう。経験から言えば、1割から2割。普通は大量の“不良カード”が検知されれば、ATMの銀行に情報が伝わってロックがかかり、現金が引き出せなくなる。だから引き出し役の実行部隊は、監視の目がおろそかになりがちな日曜日の早朝を狙ったのでしょう」(A氏)
過去最悪の被害額を出した「18億円事件」には、200人以上の“出し子”が関与したと言われ、6月16日までに7名が逮捕されている。
「“出し子”の部隊なんて探せばいくらでもいますが、今回のように、きちんと統率が取れた部隊を編成できるグループは限られています。捕まった連中にしても『金目当て』と供述しているようですが、報酬はせいぜい50万円。中には3万円で危ない橋を渡った連中もいるそうです。“出し子”をコントロールしていたのは金ではなく恐怖ですよ」(A氏)
ある地域の若者は、地元の不良仲間に呼び出され、こう言って引き出し役を強要されたという。
「もしやらなかったら街を歩けなくなるよ。それに、俺らが警察にパクられたら、お前が密告したことになるから、さらわれないように気をつけろよ」
その際、彼らが口にしたのがある半グレ集団の名だったという。
「複数の拠点に集められた現金は、その日のうちに地下銀行から海外へ送金されたそうです。当然、海外との強いパイプを持つ組織が関与しているはず。主犯格のメンバーはすでに国外に脱出したと聞いています」(A氏)
武器も持たず、決して人前に姿を見せないことから「21世紀型の銀行強盗」と呼ばれる犯行手口。今回は遠く離れた異国のクレジットカード情報が悪用されたが、こうした偽造カードによる犯罪は誰もが被害者になるおそれがあるという。
「不正引き出しだけでなく、スキミングの被害も見逃せません。深夜にコンビニのATMにスキミングの機械を仕掛け、利用客のデータをごっそり抜く手口が横行しているんです。特に磁気タイプのクレジットカードを利用する際は、カードの差し込み口に変な機械が埋め込まれていないか、よくチェックする必要があります」(社会部記者)
日本クレジット協会の統計によると、カードの不正使用による被害額は昨年だけで120億円。もはや他人事ではないのだ。