最悪の事態を招かないための予防措置こそ「歯みがき」。世の中のほとんどの人が歯みがきをする中、なぜ口内トラブルを引き起こす人とそうでない人に分かれるのか──まずは「歯みがき」の意識を変える必要がありそうだ。
「『歯みがき』と聞くと『虫歯の予防』を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、『歯周病の予防』という目的もあります。個人差はありますが、歯のケアを丁寧にした場合と、それをまったく怠った場合では、健康や寿命に差が出る、という関係が明らかになりつつあります」(安藤氏)
歯みがきとは、口内の「バイオフィルム」を破壊する作業。バイオフィルムとは、歯と歯ぐきの隙間や、舌の表面にある微生物の皮膜のことで、風呂場の排水溝などの「ぬめり」もまさに「バイオフィルム」だ。あれが口の中にあるのである。
「歯みがきの下手な人は、バイオフィルムを除去できないまま、何カ月も残っています。除去できていないということは、古い歯垢もそのままということ。歯垢が古くなると、新しいものと比べて中にいる細菌の種類が悪玉菌に偏ります。古い歯垢の中の菌のほうが炎症を起こしたり、細胞を壊して出血させたりするポテンシャルが高いのです」(武内氏)
バイオフィルムを破壊して歯垢や歯石を除去することで、唾液に含まれる抗菌物質が流通し、口内の衛生状態がよくなり健康が保たれるわけだ。必要な時間は、たった10分である。
「毎食後磨く人がいますが、頻繁に歯を磨いても意味はありません。菌の繁殖時間から考えると、朝と夜の2回で各10分程度、隅々まで歯垢を除去し、舌洗いやマウスウオッシュもすれば理想的です」(前出・武内氏)
10分でも長いと感じる人には、テレビを見ながらや、新聞を読みながらなど「ながら磨き」がお勧めだ。歯磨き粉を使いすぎると唾液が出て、10分磨くことが難しくなるため少量がよいとされている。多くの種類の歯磨き粉が市販されているが、どれを選び、どう磨けばいいのか──。
「フッ素が入ったものを使うと、虫歯予防に効果的です。私がやっているのは『つまようじ法』。歯の表面をなぞるようにブラッシングするのではなく、歯ブラシを立てて歯間に毛先を押し込む磨き方で、専用のブラシも発売されています。いくつかの方法を試して、自分に合ったやり方を探すべきでしょう」(前出・安藤氏)
ごみは歯と歯の間によりたくさんたまっているので、糸ようじやフロス、歯間ブラシなどがあるとベストだ。歯みがきによって歯ぐきから血が出るという人も多いと思うが、この「出血」点は重要なサインなのだ。
「そこが歯周病にかかっている個所なので、重点的に磨く目安になります。他にも、糸ようじを使ってみて、ニオイをかいで悪臭がするところも同様です」(前出・安藤氏)
血やニオイこそ、口腔内がピンチのシグナル。実はこのサインをキャッチしにくくする行為が、「喫煙」である。タバコを吸うと血管が収縮して、末梢の血液循環が悪くなるからだ。
「タバコの作用で、本来見られる腫れや出血が見られなくなることがあります。また、ヤニのニオイで本来の悪臭がわかりにくくなるのです」(前出・安藤氏)
とはいえ、全て日々歯みがきをしても、完全に口内をキレイにするのは、実は不可能だという。
「だからこそ年に3、4回は歯ぐきの溝の中の悪玉バイオフィルムを、歯科クリニックで除去し、洗ってもらいましょう」(前出・武内氏)
歯科医は、「痛くなったから行く場所」ではなく、「定期的に行くべき予防装置」なのだ。