意外にも両者の関係は、そもそも悪くはなかった。
「かつて小池氏の父・勇二郎氏は実業家だったが、石原慎太郎を選挙で応援していた。13年の都知事選の時に石原氏は、小池氏に出馬を促し、『支援する。お父さんへの恩返しだ』と伝えたのです。結局、小池氏は出馬しなかった」(石原氏周辺)
しかし昨年の都知事選に小池氏が出馬した際、自民党は増田寛也元総務相を担ぐ。この時自民党東京都連会長の石原伸晃氏は小池氏を「自民党の人間じゃない」と罵倒。息子のためにと増田氏の応援弁士に立った石原氏は、小池氏を「大年増の厚化粧」と罵った。
この辺りから両者のバトルが始まったと解説するメディアもあるが、小池支持の都議会会派幹部は言う。
「厚化粧発言に小池さんは傷ついたかもしれませんが、逆にそれをネタにして訴え、多くの女性の共感を得ました。小池さんは、そんなことで石原さんを生涯恨むような小さな器ではなく、一枚も二枚も上手でしたたかで、たくましい。敵を作って戦う姿勢を見せてみずからの存在を高めていく戦術です。長く知事を務めた象徴として、石原さんは格好のターゲット。敵に仕立てやすい存在にすぎない。対して、石原さんのほうが踊らされている、というのが真の構図でしょう」
踊った石原氏の会見は自身に奏功する結果となったか──残念ながらノーだ。
会見のポイントは、東京ガスとの土地交渉や合意に至った経緯。汚染が発覚しながら最終契約まで進み、莫大な汚染対策費を都が払ったことなどだ。
交渉については側近中の側近で副知事だった浜渦武生氏が、私の単独インタビューで「東京ガスとの交渉は石原さんから『お前やれ』と任された」としたうえで、「東京ガスはあの場所に壮大な街づくりを計画していたから、株主などに対する説得材料として、護岸工事は都が、土壌汚染対策は東京ガスがやって売買することで合意した」と明かした。また浜渦氏は「交渉経過は節目で石原さんに報告した」としているが、石原氏は会見で「(報告を)聞いていない」と語り、両者の主張は食い違っている。
また東京ガス側が汚染対策を施したあとに地下から基準値の4万3000倍のベンゼンが検出されたのだが、汚染対策費については結局都が払った。総額は800億円を超え、東京ガスに負担させたのはわずかに78億円。実は会見直前、元都幹部ら数人が一部メディアの取材に「都が大半の対策費を捻出することで当時の石原知事に話して了承をもらった」と証言していた。
鈴木哲夫(ジャーナリスト):58年福岡県生まれ。テレビ西日本報道部、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリーに。新著「誰もかけなかった東京都政の真実」(イースト・プレス)が絶賛発売中。