“春は投手力”とよく言われる。選抜を勝ち進むうえで重要なのは何よりもまずピッチャーが大事ということを表した格言だが、今大会は投手よりも打者にプロ注目の素材が集まっているのが最大の特徴といえる。
早稲田実(東京)の清宮幸太郎、履正社(大阪)の安田尚憲の2人が東西のその筆頭だが、ほかにも1回戦を突破したチームから挙げてみると、智弁学園(奈良)の福元悠真、盛岡大付(岩手)の植田拓、福井工大福井の北川智也、滋賀学園の後藤克基、秀岳館(熊本)の廣部就平、そして福岡大大濠の古賀悠斗と東怜央ら、将来が楽しみな顔触れがそろっている。というワケで、今回は選抜における欠かせない“打者トリビア”をお届けしよう。
現在、選抜には2年の春と3年の春の最大2回の出場が可能だが、その2大会での通算本塁打数は84年の第56回大会と85年の第57回大会でPL学園の清原和博(元・読売など)が放った4本が最高記録。1大会における通算本塁打数となると、清原を筆頭に計10人が記録した3本が歴代1位タイ。この中には元木大介(元・読売)、松井秀喜(元・読売など)といった、のちにプロ野球で活躍するビッグネームも含まれている。
松井といえば、あの明徳義塾(高知)戦での“5打席連続敬遠”のせいで夏の選手権のイメージが強いが、春夏の甲子園で放った通算4本塁打のうちの3本が春の選抜でのものなのだ。その第1号が92年の第64回大会。この年から甲子園はラッキーゾーンが撤去され、両翼5メートル、最深部で8メートルも広くなった初めての大会だったにもかかわらず、「僕には関係ありません」と強気のコメントを出し、その通りのことをやってのけたのである。開幕試合となった1回戦の宮古(岩手)戦で2打席連続ホームランを放ち、7打点といきなり超高校級のパワーを見せつけたのだ。さらに2回戦の堀越(東京)戦でも8回表に相手エースの山本幸正(元阪神)から2試合連続となる2ランを放った。チームは準々決勝で敗退したものの、松井はこの大会を通して飛び出した計7本(ラッキーゾーンがあった前大会の18本から11本も減った)のうちの3本を1人で放ったのである。
強打者が多いとされる今年の春選抜。松井に続くようなホームランアーティストは果たして現れるのだろうか。
(高校野球評論家・上杉純也)