今大会が始まるまで、過去の夏の甲子園の大会最多本塁打記録は06年第88回大会での60本だった。
それが今大会は準々決勝を終えた時点で過去最多を更新する64本ものホームランが飛び出している。個人としても広陵の中村奨成捕手が3試合連続個人1大会4本塁打以上を記録。過去に5人しか達成できなかった大記録をマークしたが、さらに、中村は準決勝の対天理戦で、2本塁打を記録し、新記録の個人1大会最多6本を記録した。それまでの個人1大会の最多本塁打の記録保持者はいわずと知れたPL学園(大阪)の清原和博(元・巨人など)である。 とはいえ、清原は春夏通算の甲子園本塁打記録では以前断トップの13本をマークしているが、その極め付きが3年夏の60年第67回大会決勝戦の宇部商(山口)との一戦だろう。
2‐3と劣勢だった6回裏にバックスクリーン左へ放り込んだ同点ソロである。この試合では4回裏に続く2打席連続弾であり、この大会だけで通算5本目。1年夏から積み重ねてきた甲子園での本塁打としては通算13本目となる一発であった。
この時試合を中継していた朝日放送の植草貞夫アナウンサーは思わずこう叫んだほどだ。「恐ろしい! 甲子園は清原のためにあるのかぁ~~!!」
個人春夏甲子園通算本塁打記録はこの清原の13本だが、通算で5本以上打った選手は以外に少ない。5本で並んでいるのが浪商(現・大体大浪商=大阪)の香川伸行(元・南海)、済美(愛媛)の鵜久森敦志(東京ヤクルト)、大阪桐蔭の平田良介(中日)の3人。そして6本で2位タイに並んでいるのがPL学園の桑田真澄(元・巨人など)と上宮(大阪)の元木大介(元・巨人)の2人のみだったが、今大会の中村奨成が、8月22日時点でこの2人に並んだ。
これが夏の甲子園での通算本塁打記録となると9本の清原を筆頭に以下、桑田真澄、宇部商の藤井進、平田良介、智弁和歌山の広井亮介、光星学院(現・八戸学院光星=青森)の北條史也(阪神)の5人が4本を記録。今大会の中村奨成はこの5人を抜き、8月22日時点で清原に続く2位となった。
とはいえ、こうしてみると春夏通算13本、夏の甲子園通算9本の清原が1人、群を抜いているが、注目したいのはどちらにも上位に桑田真澄がランクインしていることだろう。5季連続甲子園出場しているだけに打席数が多かったのも確かだが、それ以上に勝負どころでの本塁打が目につくのだ。
その中には史上初の夏春夏の3連覇を狙った池田(徳島)の夢を打ち砕いた一発(83年第65回大会準決勝)と金足農(秋田)に1‐2とリードされた土壇場の8回裏にレフトポール際へと放った起死回生の逆転2ラン(84年第66回大会準決勝)が含まれている。3年間、絶えず清原の前後の打順を打っていたこの勝負強い桑田の存在は大きく、それだけに相手チームも清原と勝負せざるを得ないケースも多々あった。つまり“KKコンビ”のPL学園が甲子園で黄金時代を築けたのは必然だったのである。
(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=