「風邪は万病のもと」とことわざにもあるとおり、風邪に罹患することで、糖尿病や心臓病が悪化するケースもあるため「軽いうちに安静にして治すべし」と心がけてください。また、肺炎、中耳炎、髄膜炎、副鼻腔炎、気管支炎などの合併症も同様に注意が必要です。
季節的には秋も深まり、まもなく冬が到来しますが、1年で最も風邪になりやすい季節でもあります。うがいや手洗いをしっかりして、疲れやストレスをためない日常生活を心がけてください。
さて、お題です。風邪の中でも「鼻風邪」と「のど風邪」は、どちらがよりリスクが高いでしょうか。
鼻風邪には主な症状として「くしゃみ・鼻水・鼻づまり」があります。また、アレルギー性鼻炎(ダニによるハウスダストや花粉症の際の鼻炎など)による鼻風邪もありますが、いずれも大病ではありません。ウイルスや細菌が原因の急性鼻炎も、中耳炎などを併発する可能性こそあれ大病には結び付きません。副鼻腔炎(鼻詰まりがひどく、鼻水が緑色で匂いがわからなくなる症状)だけはやっかいですが、蓄膿症止まりで、それ以上健康に害を及ぼすことはありません。
一方、のど風邪とは「のどがムズムズして、せきが出る」症状です。せきが続くと、喘息と同じ症状=せき喘息にまで至る可能性があります。1回せきが出ると5分ぐらい止まらない場合もあり、悪化すると発作が数時間続き、人前でしゃべろうにもしゃべれない、寝ようにも寝られない、などと日常生活に支障を来します。何よりも怖いのは、喘息死を起こす可能性があることです。
つまり死に至る可能性があるのが「のど風邪」なのです。
喘息が原因で亡くなった人は平成28年に1511人います(厚生労働省人口動態統計の発表)。急に呼吸が苦しくなり、対応せずにいると気管支の粘膜がむくみ、粘膜からの分泌物がたまった結果、空気の通りが悪くなり喘鳴や呼吸困難を起こし、最悪の場合は死に至るのです。予期せぬ急な悪化に対応が遅れることが原因となるため、急な発作が起きた場合は夜中でも救急外来へ行くことを考慮してください。病院で気道の炎症を抑えてもらうことが肝心です。
また、のどや肺に不快感を伴うせきが肺がんや咽頭がんの初期症状というケースもあります。痛みについても留意したほうがいい場合もあります。一般的なのど風邪は声が出にくくなるだけですが、唾が飲み込めないほどの痛みは非常に危険です。これは扁桃腺炎の可能性が高く、風邪とはまったく別の病気なのです。
扁桃腺炎は、せきがないのにのどに痛みを感じるほか、38度以上の高熱が出て、倦怠感や頭痛、関節痛、悪寒などの症状があります。加えて、リンパ節が腫れ、その痛みが耳や側頭部に広がることもあります。インフルエンザのように他人から感染するわけではなく、疲れや寝不足、ストレスなどがたまり免疫力が低下すると、口内の細菌により扁桃腺炎を起こすのです。
扁桃腺炎が悪化した場合、左右の扁桃腺がともに腫れ、のどの真ん中でくっついてしまいます。こうなると唾が飲み込めないばかりか息もできなくなり、ひどいケースでは手術により扁桃腺を切らねばなりません。放っておけない怖い病気です。
病院を訪ねて医師に風邪だと診断されれば恐れるに足りませんが、自己判断で自分は風邪だと思っていたのに違う病気だった。これぞ怖いパターンなのです。
風邪をひいて3日たっても症状がよくならない場合、他の病気である可能性がありますので、早めに病院に行ってください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。