とはいえ「花粉の少ない森づくり」の事業開始からはや12年。その間、都知事も猪瀬直樹氏から舛添要一氏へ代わり、今回は「都民ファースト」をうたう小池氏が大々的に「花粉症ゼロ」を打ち出しただけに、都民の期待は大きかったのだが‥‥。小川氏が言う。
「東京都のスギの森林面積は約2万ヘクタール。スギの植え替えは毎年60ヘクタールのペースで進んでいるそうですが、300年以上かかる計算です。そのうえ、林業の人手不足や従業者の高齢化によってペースダウンは必至。花粉量を抑えるには林業を守り育てて、多摩産材をどんどん有効活用していくことが重要ですが、東京都では目立った補助政策を打ち出せていません」
そこで、東京都花粉対策本部事務局に話を聞くと、
「スギの木の植え替えは、もともと民間で進められていた事業なのですが、収益的な問題もあり民間ではなかなか進まなかった。そこで東京都の政策として組み入れられたのですが、スギとはいえ、個人の所有物である以上、合意がないかぎり切れない。ただ、何もせず手をこまねいているだけでは絶対に進まないので、我々としては日々粛々と行っていくだけです」
やはり都内のスギ伐採には「個人所有」という厚い壁があるようだ。
そのうえ、スギ花粉は都内の山林だけではなく、都外からも飛来してくる。東京都は近隣の県や政令指定都市と「九都県市花粉発生源対策推進連絡会」を組織し、情報共有や伐採の計画などを共同で進めているが、それも目を引く成果は出ていないという。
では現在、小池氏が特別顧問を務める「希望の党」は花粉症対策についてどう答えるのか。同党の公式サイトには現在も「希望への『道しるべ』」として「花粉症ゼロ」という文言が掲げられているが、事務局から送られたファックスには、「『花粉症ゼロ』は希望の党としての『選挙公約』との位置づけではなく、将来的に目指す方向性としてお示ししたものです」
と、責任逃れとも取れる回答が記されていた。
政治家にとって言葉は重い。その「公約」を信じて、多くの有権者が一票を投じたのは事実ではないか。
「(小池氏は)2年前の都知事選の際には檜原村を視察し、多摩格差の是正や林業の再興を訴えていましたが、『花粉症ゼロ』への関心は薄れているように見受けられます。豊洲移転や五輪の準備などで、そこまで手が回らないというのが実情ではないでしょうか」(前出・小川氏)
第一生命経済研究所の調査によると、花粉症によって「外出を控える」といった個人消費の落ち込みは約7500億円。労働生産性の低下といった目に見えないダメージを含めれば、1兆円以上という試算もある。
花粉症対策がこのまま「やる気ゼロ」で放置されないよう望むかぎりだ。