かたや「ブーム」と斬り捨てれば、かたや「疑惑隠し」と反撃。政権の主と新興勢力の女ボスによる激しい選挙戦は、実は巧妙に仕組まれた「演出」だった──。「安倍晋三の急所を握る」小池百合子劇場は、総選挙を経て「第二幕」へと移行した。それはもはや、握るどころか、しゃぶり倒しの様相を呈しているのだ。
「排除いたします──」
振り返れば、この一言が今回の総選挙の流れを一気に変えた。他でもない、希望の党代表を務める小池百合子都知事(65)が9月29日の定例記者会見で放った不用意発言である。
以前報じたように、安倍晋三総理(63)、民進党の前原誠司代表(55)ら錚々たる「七人の騙され侍」の“急所”をシカと握ってコントロール下に置いた小池氏の前途はまさに洋々だった。
ところが、希望の党の公認を得たい民進党議員らに踏み絵を強要し、返す刀でリベラル勢力の排撃を宣言したこの一言によって、「緑のたぬき」への追い風は急激に失速。後に小池氏は「キツイ言葉だった」などと釈明したが、選挙戦でもついぞ逆風が止むことはなかった。件の会見に出席していた、全国紙都庁担当記者が明かす。
「実は例の排除宣言を引き出したのは、小池氏に批判的なフリーの記者。ただ、小池氏に『前原代表を騙したのか』と迫るこの記者に対して、会見場の記者らは『またコイツか』という感じで冷笑していました。そんな雰囲気を感じ取ったのか、余裕の笑みを浮かべる小池氏から飛び出したのがあの一言だったんです。好事魔多し、とはよく言ったもの。まさに一瞬の油断が招いた大失言でした」
一方、小池氏への逆風を横目に思わぬ「漁夫の利」を得たのが、小池氏にまんまと急所を握り潰されながらも、窮余の一策として立憲民主党を旗揚げした枝野幸男代表(54)だった。都庁担当記者が続ける。
「小池氏は安倍自民にイジメられているというイメージをうまく作り上げることで有権者の支持を集めてきた。自身が出馬した都知事選しかり、その後の都議選しかり。ところが今回は、枝野氏が不用意発言を逆手に取る形で小池氏のお株を奪った。民進党内のリベラル勢力に引導を渡したゴーマン女帝──。タナボタの感は否めないものの、日本人の判官贔屓を巧みに利用したうまい作戦でした」
ところが、である。複数の永田町関係者によれば、予想外の逆風を呼んだ失言は別として、全ては小池氏が、宿敵だったはずの安倍総理と秘かに手を組んで仕掛けた「ヤラセ」だったというのだ。さらに、求心力を失ったかに見える小池氏は、安倍総理を「しゃぶり尽くす」ことで、次の衆院選後に初の女性総理の座を射止めるべく早くも爪を研ぎ始めているのである。
とすれば、有権者もまた小池氏にまんまと騙されたということになるが、その小池氏と安倍総理による「ヤラセ」を読み解くキーポイントはまず、2人の経歴や政治思想に潜んでいる。
森 省歩(ジャーナリスト)