フィールドワークさながらの研究法で元世界王者が偉人たちを分析する異色の企画は、最終回を迎えた。その言動を目の当たりにし、みずから直接会い、あるいは共演したり──。そんな経験から、現代の偉人と認定する6人のスターを、秘蔵エピソードとともに快論する。
「現代の偉人」といえば、真っ先に出てくるのは田中角栄さんだね。昭和47年に角さんが総理大臣になった時から興味があって、角さんのことが書いてあるいろんな本を読んだりして、当時から私にとって「心の偉人」だと思ってるのよ。
角さんと俺とはなんとなく境遇が似てるところもあって。中学出てすぐに上京したとか、家が貧乏だったとか。貧乏といっても、角さんは俺からすればそんなに苦労はしてないよね。当時、父ちゃんが馬喰と呼ばれる、牛や馬を売買する商売してたから、食べる物には困らなかった。そこいくと俺は金もない、家も雨漏りする。「おやすみなさい」って寝て、朝起きて目開けたらお天道様が見えるんだから、ドアや窓の隙間から。小遣いなんかもらえるわけないから「おい、ちょっと持ってこい」って、いいところのお坊ちゃんから無断で借りたりしてね。それで警察や裁判所に行ったりして、中学時代はフラフラしてたな。
角さんの生まれ育った家にも行きましたよ。新潟県柏崎市の山の上のほうにあってさ。木造2階建の大きな田舎の家っつー感じで、門構えが凄かった。角さんは門が好きなんだね。目白の御殿も門が凄いでしょ。新潟の家には鉄のでっかい扉みたいなのが付いてた。その扉と地面の間のちょっと空いてる隙間から手を入れて、石を3個もらってきたの。もらってきたっつーか、黙って拾ってきたんだけど。
その帰りに新幹線に乗ったら、偶然、隣に座ったのが田中真紀子さんですよ。そういうことってあんだねぇ。初対面だったけど、お互い顔は知ってたから挨拶して、
「今日は実家にお邪魔しまして。門の下から石3個もらってきました」
そう言って石を見せたら、
「もっと持ってくればよかったのに」
だって。あれは今から20年以上前だろうね。
角さんは最初に付けられた名前は「角栄」じゃなくて「~すけ」とか「~太郎」とかそんな感じ。近所のバカ犬の名前だったんだって。親父さんが付けたんだけど、近所の犬がワンワンほえるから、親父さんの記憶にその名前があったのかな。だけど角さんのお母さんが、
「あんなバカ犬の名前を私の子供に付けられっか!」
って拒否したことで、親父さんが付けたのが「角栄」。「世間の隅から隅まで栄えさせる」という意味らしいね。親父さんはセンスあったんだね。だったら最初っからちゃんと考えときゃよかったけど、馬売ってて名前考えるどころじゃなかったんじゃないの。それにしても、もしそのバカ犬の名前だったら、角さんの人生も変わってただろうね。