麻雀が「健康麻雀」として新たなブームを迎えている。財団法人日本生産性本部の発行する「レジャー白書2019 余暇の現状と産業・市場の動向」によると、2011年の960万人から下降の一途をたどってきた麻雀の参加人口は、2016年に500万人まで減少したが、2018年度は580万人に増加しV字回復の兆しを見せているのだ。
そのブームを支えているのが、高齢者と女性。むしろこれまで麻雀を敬遠してきた層だが、その共通のキーワードが「健康」である。
高度成長期~バブル期の雀荘と言えば、女性の姿はほとんどなく、阿佐田哲也の小説や麻雀雑誌を愛読するサラリーマンや学生が、明け方まで卓を囲むのがかつての風景で、あまり健康的なイメージはなかった。
だが、麻雀はそもそも将棋やオセロと同様マインドスポーツの一種であり、射幸心を煽らなくとも十分に奥が深く“ハマる”ゲーム。90年代以降は、高齢者人口の増加やヘルシー志向の高まりに伴い「健康麻雀」がじわじわと広がっていった。今ではカフェ仕様の内装で女性も気兼ねなく入れる麻雀店や、高齢者のレクリエーションの場として昼間に繁盛している麻雀店も増えている。
また、麻雀は牌をそろえるパズル要素や、相手の手を読む駆け引きがあり、手先を動かすことから認知症予防の効果も期待されている。麻雀中は脳活動が活性化するという研究報告もあり、今や高齢者の麻雀教室は自治体の福祉事業として欠かせないコンテンツだ。
「麻雀を始めたのは、区の麻雀教室に参加したのがきっかけ」と語るのは横浜市在住のHさん(73歳・女性)。脳トレの一環として通ったところ、そのおもしろさにすっかりのめり込み、今では週3日コミュニティーセンターや友人宅で卓を囲む。麻雀仲間とは食事に行ったり、箱根温泉に出掛けることもあるという。
「昔は麻雀で帰宅が遅くなる夫を怒ったものですが、今ではその気持ちがよくわかります(笑)」(前出・Hさん)
さらに今後の麻雀ブームを牽引するとされるのが、若年層世代だ。麻雀経験のある大学生の多くは10代の頃からスマホアプリで麻雀に親しんでおり「麻雀=ランキングを競うゲーム」といった競技志向が強い。かつてギャンブラーの主人公がデフォルトだった麻雀マンガも、昨今では麻雀部の女子高生たちが活躍する「咲-Saki-」がヒットするなど、新たな世界観で裾野を広げている。
さかのぼれば、日本で最初に麻雀が普及したのは1920年代。牛込神楽坂のカフェー・プランタンで菊池寛や久米正雄らの文人たちが熱中したことをきっかけに、麻雀の第一次ブームが始まった。戦後のサラリーマンが興じたレート麻雀全盛期を第二次ブームとすれば、昨今の健康麻雀や競技麻雀の隆盛はまさに第三次麻雀ブームといえる。時代の変化に則して新たなユーザーを取り込んでいくのもまた、麻雀の奥深さといったところか。