「おい、いい加減、早く売れろよ!」
10年程前、酒席の場で「北郷はいくつになった?」と、殿から年を聞かれ「はい、37歳になりました」と、わたくしが即答すると、殿は即座に、というか食い気味に、冒頭の言葉でツッコんできたのです。
確かに、まったく売れる兆しのない、四十路の足音も聞こえてきた、当時のわたくしにはこれ以上ない、実に的確なツッコミです。そんな殿のツッコミに、心の中で〈ごもっとも!〉と、いたく賛同したことをよく覚えています。
で、わたくし、殿の弟子になり24年程になりますが、殿にツッコまれて我に返り〈もう笑うしかない〉といった気持ちになったことが、何度もあります。殿は本当に人の痛いところを見抜き、最適な言葉でツッコミを入れてきます。
以前、軽い吃音癖があったわたくしが、殿とのタップダンスの稽古の後のミニ宴会の場で、プライベートでややいいことがあったことも重なり、いつもより早いペースで酒を飲み、殿の前でかなり“いい調子”になった日がありました。この時、「北野映画に出演させていただいた際、殿からドッキリを仕掛けられ、見事にパニクった」といった、ライブなどで何度も披露したことのある漫談を、改めて殿の前で、雑談のふりをして話し出したのですが(殿は弟子が自分のせいでひどい思いをしたといった話が大好きです)、「ドッドドドドドドッキリ」と、盛大に吃音が出てしまったのです。その瞬間、
「ドッドドドドドドって、お前、ハーレーダビッドソンじゃねーんだから、ドドドドうるさいよ!」
と、ツッコまれたのです。
説明するまでもありませんが、ハーレーのエンジン音は、活字で表すと「ドッドドドドド」といった感じのサウンドであり、殿はそれを指摘したのですが、「ハーレーダビッドソンのエンジン音じゃねーんだから」と、皆まで説明せず、「ハーレーダビッドソン」といったワードだけで処理する感じが、実に殿的で素敵です。もちろん、そんな殿のツッコミに笑ってしまい、その後、オチまで話をすることができなかったのは言うまでもございません。
で、いきなり他人の話になりますが、わたくしの先輩で、正直、かなりせこく、やたら節約家な兄弟子がいて、その方が以前、殿の前で「年収が低く、毎年赤字なため、国民年金や住民税などを大幅に免除してもらっている」といった話を、なぜか自慢気にしていたことがありました。そんな兄弟子がある日、殿との酒席の場で酔い任せて「今の日本の政府はだらしがない」的な批判を熱く語り出したことがあったのです。
そんな話を明らかにニヤニヤしながら、しばらく聞いていた殿は、抜群のタイミングで、「まっ、とりあえずお前はちゃんと税金払え」とバッサリとツッコみ、その場にいた誰もが「待ってました!」と言わんばかりにドッと吹き出し、その日の宴会は、最後にオチが付いてお開きとなったのです。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!