「おい、やっぱりまだライブはダメか?」
今年、広島と東京で開催を予定していた「ビートたけし“ほぼ”単独ライブ」が、コロナ禍のため、どちらも中止になってしまいました。
殿はこの頃、わたくしの顔を見ると必ずと言っていいほど、先の言葉で確認してくるのです。他にも、
「今年はもうライブは無理か?」
「とりあえずライブは来年か?」
等々、とにかく、その日最初の話題はほぼ毎回、「実際、ライブはいつできるんだ?」的な話から入ります。
わたくしから見て今の殿は、小説を書くこと、映画を作ること、ライブをやること、この3つがモチベーションアップの源となっていて、楽屋での雑談はほぼこの3つの話題が独占します。そんな中でもライブは、最もよく出る話題だったりします。
浅草の“板の上”で修業を積んで世に出た殿は、いくつになっても“板の上で客前に立つこと”に貪欲で、そのための時間も労力も惜しみません。
で、実際のところ、ライブは今、ソーシャルディスタンスを守り、お客の数を制限すれば、できないことはないのですが、殿いわく、
「だけど舞台出てってよ、席が空いてたら、なんかちょっと気になるよな」
と、芸人ならば当然の感情を素直に口にしていました。殿は昔から、客の入りもそうですが、生の客の反応を誰よりも気にします。
以前、酒席にて「漫才ブームの思い出」といった話題で盛り上がった時、
「昔は舞台に出てって、客席に1人でも笑ってないヤツがいると、もうそこばっかり気になって仕方なかったけどな。何言ってもそいつが笑ってないと、イライラしちゃってよ」
と、話していたことがありました。
で、5年程前から始めた先の単独ライブも毎回、ライブ後には、「おい、ちゃんとウケてたか?」「前半、客が冷えてなかったか?」「途中から客が飽きてなかったか?」等々、とにかく“その日のウケ”について何度も確認してきます。もちろん毎回、確実にウケているのですが、殿はライブ中の2時間なら2時間、終始ずーっとドカンとウケていないと気が済まない方で、思うにこれは、漫才ブーム時代のツービートがとにかく速射砲でボケを繰り出し、短いセンテンスで常にドカンとウケていたため、“その時のウケ方”が殿の中では今も基準値であり、それよりちょっとでも下回る感覚があると「おい、ちゃんとウケてたか?」といったことになるのでしょう。
70を過ぎた殿が今もまだ“目の前の客の笑いの量”にこだわる姿は、見ていて本当にしびれます。
そんな殿が2週間程前、
「まー俺もずうずうしく生きたとして、あと5~6年か? そうすると映画はあと2本くらいは撮れるな。うん。ライブは年に2回くらいはやるとして、あと10回くらいはできんだろ?」
と、かなり唐突にさらっと漏らしていたのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!