阪神・矢野燿大監督は、今こそ師である故・野村克也監督の教えを思い出すべきではないか。そんな声が漏れ聞こえている。
阪神が開幕から苦しんでいる原因は確かにあるだろう。2年連続セーブ王に輝いたロベルト・スアレスの退団、エース・青柳晃洋も新型コロナウイルス感染症により出遅れた。だが、セ、パ各球団ともにそれぞれに問題を抱えながら、ペナント制覇、日本一を目指している。阪神だけが大きなハンディを背負って戦っているわけではない。
もちろん、数字上は巻き返しのチャンスは残っている。そのためにはトレードや新外国人選手の獲得などもひとつの手だろう。だが今のところ、
「阪神にはそんな動きはない。静観している」(スポーツ紙デスク)
では、指揮官である矢野監督自身が、何らかのアクションを起こさなくてはいけない。それはチーム全体が現状を打破するため、考え抜くことだ。
現在のペナントレースの状況では、阪神は間違いなくセ・リーグの弱者である。野村氏はヤクルトでも阪神でも楽天でもミーティングで「弱者が強者と戦う時は、対等に勝負しようと思ってはいけない」と話していたという。だが奇襲ばかりでも、相手には見破られる。機を見て奇襲を仕掛けるのが「弱者の常套手段」というのが「ノムラの教え」だ。
4月19日の横浜戦。ノムさんが矢野監督に伝えていた「様々な局面で相手が何を仕掛けてくるのか考えて、徹底的に相手の嫌がることをする」という教えを実践したのは、敵将・三浦監督の方だった。
先発ロメロが4点を奪われた後の、2回の攻撃。1点を返してなおも一死満塁で、代打・宮本を送った。さらに1点差に迫った4回一死二塁からは代打攻勢をかけ、早々と同点に追い付いた。
三浦監督の予想外に早い仕掛けに、矢野監督の投手交代が後手に回ってしまったのは確かだろう。
昨季、これもノムさんの教え子だった高津臣吾監督率いるヤクルトが、前年最下位から日本一に輝いた。それだけに「高津にできたことがなぜ、矢野にはできないのか」という声が、球界OBたちから出始めている。
(阿部勝彦)