まさに開いた口が塞がらない…。そんな前代未聞の騒動が勃発したのは、横山ノックが2期目を狙う大阪府知事選の投票日を2日後に控えた、94年4月9日である。なんと、横山が前日の8日夕方、河内長野市内を遊説中、選挙カーを伴走するワゴン車の後部座席で、運動員である女子大生のA子さん(21歳)にみだらな行為をしたとして、告訴されたのである。
3人の女性弁護士に伴われ、記者会見したA子さんによれば、選挙事務所に戻る途中、選挙カーに乗り込んできた横山が「風邪を引いていてかわいそうに。毛布、お前に掛けてやるわ」と言う。そして1枚の毛布をお互いの腹から足元まで覆い隠すようにかけると、A子さんのズボンの中に右手を差し入れて下半身を触った上、左手で太腿を撫でたというのだ。
さらに、読み上げられた訴状によれば「(女子大生が)生理中だったのも構わず触り続け、その指をしゃぶり…」「車から降りる時、『お前、13日空けとけよ。ヴィトンのバッグと財布を買ってやるから。このことは誰にも言うなよ』と私に言いました」。これが全て事実なら、とんでもない話である。
横山は選挙戦終了後の10日夜に会見を開き、
「事実無根、選挙妨害としか思えない」
と、ギョロ目をひん剥いて大反論。当選直後の11日にも、
「密室でもなく同乗者のいたワゴンの中で、そんな行為ができますか。全くバカげている。明日以降には法的措置を取りたい」
ゆでダコのように顔を朱に染め、全面対決の構えを見せたのである。
横山は235万票を獲得して圧勝し、府知事再選が決定。事務所前で本人を直撃すると、改めて疑惑を全否定した。
「A子のほかに、運転手、助手席には大阪府警から派遣された男性SPも乗っておったんですよ。そんなバカなことするはずがないやろ!」
15日に女性を逆告訴した、とも語り、
「もし裁判に敗れるようなことがあれば、辞任します」
と、ハッキリ宣言したのである。
81人という大弁護団の応援を受け、強制わいせつに対する慰謝料と、逆告訴による名誉棄損の民事裁判を起こした女性に対し、横山は事実関係を争わず。裁判は12月に横山の全面敗訴で結審した。さらに刑事でも起訴され、ついに府知事を辞任することに。
翌年8月10日に下されたのは、懲役1年6月、執行猶予3年の大甘判決だった。そこで、大阪の街頭で道行く人たちにインタビューすると、50代と思しき男性がひと言。
「ノックがいやらしいのは今に始まったことやないやろ。ま、叩かれるだけ叩かれて、辞めて責任取ったんやから、エエんちゃいますか」
なるほど。このひと言に、大阪府民の不思議な「ノック愛」を感じたのだった。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。