プロ野球はいよいよ勝負の9月に突入。優勝争いも佳境に入ってきましたが、個人タイトルの行方からも目が離せません。
セ・リーグの打撃主要3部門で一番の激戦は首位打者争いです。8月が終わった時点でトップは阪神・マートンの3割3分9厘、続いてヤクルト・山田が3割3分6厘、中日・ルナが3割3分2厘と続きます。逆転の可能性があるのは4位の広島・菊池、5位の阪神・鳥谷まででしょう。予想はマートンが本命、ルナが対抗です。マートンはメンタル面でリズムを崩すこともありますが、ヒットを打つ技術はピカイチです。ルナは中日というチーム自体が目標を失っているので、個人のことだけを考えられるのが強みです。
今季、大ブレイクした山田も勢いがあり可能性はゼロではありません。でも、彼の場合は1番という打順を任されており、首位打者争いを演じるメンバーの中でいちばん打数が多く、今から打率を1分、2分と上げにくい側面があります。反面、落ちにくいのも確かで、逃げる展開には向きますが、追いかける展開だと苦しくなるのです。
今後の首位打者争いのポイントは、ヒットを打つことより、いかに四球を稼げるかでしょう。わかりやすく説明すると、3打数1安打1四球だと打率3割3分3厘ですが、4打数1安打だと2割5分となり、打率が下がってしまうのです。
私も現役時代、打率3割を打つための目安として、1試合で安打と四球を足して2になることを目指していました。その考え方が身につくと、ボールの見極めがよくなり、打者としてのステージが一つ上がります。山田もまだプロ4年目の22歳。タイトル争いの中でボールの見極めの大切さに気がつけば、今後の大きな財産となるはずです。
割り算で競う打率だけでなく足し算の本塁打や打点も、実は「ボール球を振らない我慢」が大切。現役時代、王さんから「掛布君、ホームランはバットを多く振っても増えないよ」と言われたことを今でも覚えています。つまり、打つべき球をいかに打つかなのです。
ホームラン打者に対して初球から簡単に甘い球は投げてくれません。そこでボール球を振らなければカウント1B0S、2B0Sなど、打者有利な状況に持っていけるのです。そして、打者有利なカウントになっても、打ち気にはやってボール球に手を出さないことが大事です。その我慢をできるか否かが、タイトルを獲れるか獲れないかの差となるのです。
この点で、自分の打撃を見失ったのが広島のエルドレッドです。8月終了時点で打点は阪神・ゴメスと並ぶ91打点、本塁打は2位のヤクルト・バレンティンに4本差の33本と、暫定2冠。ですが不振のため、8月31日に2度目の二軍降格となりました。この様子なら打点はゴメス、本塁打は故障さえなければバレンティンが4年連続のキングに輝くでしょう。
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