動物の前兆行動を研究する一般社団法人地震予兆研究センター主任研究員の山内寛之氏に聞くと、
「地震の前にクマの攻撃性が高まったり、出没件数が増えるという客観的なデータはなく、出没地域も秋田や青森、富山などと広範囲に及んでいるため、これを地震の前兆行動と決めつけるのは早計な気がします」
その一方で、乳牛の搾乳量の変化と大地震の関係を調査し、論文で受賞歴を持つ山内氏はこうも語る。
「一例を挙げると、14年4月に茨城県つくば市の乳牛の乳量が一定水準まで下がり、およそ3週間後に伊豆大島近海を震源とするM6の地震が発生。東京でも震度5を観測しました。大地震の前になぜ乳量が下がるのか、そのメカニズムは解明されていませんが、どうやら、地震発生前に生じる低い周波数の電磁気が影響していると思われます。また、それを感知するための遺伝子について、クマも同様の遺伝子を持っているとの論文もあり、地震前にクマの行動が変化する可能性は十分に考えられます」
クマも乳牛同様に、地震前のシグナルを感じ取っているのだろうか。
10月31日には北海道で消防隊員3人がヒグマの襲撃を受け、その2日後には、行方不明中にクマ被害で亡くなったと見られる20代男性の遺体が発見された。
ヒグマは北海道、ツキノワグマは本州と四国に生息しているが、意外な場所でも目撃されていた。
「12年に環境省が九州のツキノワグマに『絶滅宣言』を出しましたが、以降、しばしば目撃情報が上がっています。22年1月5日には大分県大分市内でクマが目撃され、1月22日には日向灘でM6.6、最大震度5強の地震が起きました。あまり見かけないエリアでの目撃情報は特に警戒すべきでしょう」(百瀬氏)
狂暴なクマが一日も早く冬眠に入ることを願うばかりだが、百瀬氏は緊張を緩めない。
「警戒すべきは来年の春。今年のクマの大量出没の大きな要因は猛暑によるエサ不足と見られますが、そもそも猛暑の翌年は大地震が発生しやすいとも言われています。東日本大震災が発生した前年の10年は、当時、観測史上1位の猛暑を記録しました。地域によって異なりますが、クマが冬眠から覚めるのは3月から4月にかけて。もしも、まだ気温の低い2月頃にクマが目撃されたら大地震の前兆と疑うべきです」
クマといえども、大地震による土砂災害に巻き込まれてはひとたまりもないだろう。今年の新語・流行語大賞の候補にもなっている「アーバンベア(都市型クマ)」が市街地をウロつく未来など想像したくもないが‥‥。
「生きていく上で適切ではない行為を〝異常行動〟と呼びますが、大地震などの自然災害を前にした動物の行動変化は、生き延びるための正常な行為。乳牛やクマに限らず、身近な犬や猫、鳥類の異変を見逃さないことが大切です」(山内氏)
ペットの行動からも目が離せないということか。