忘年会シーズンがやって来た。1年の憂さを水に流すには一次会だけじゃもの足りず、ついつい「もう1軒」となってしまう。しかし、本当に大丈夫か? 年末の夜の街には、酔客を狙う「ボッタクリ店」が待ち受けている。その“魔の手”は静かに近づき、手口もより巧妙になっているのだ。諸兄には罠にハマってほしくない! だからこそ、恥を忍んで記者がトホホな体験を告白する。
「先輩、おはよう!」
11月上旬、聞き慣れない野太い声で記者は目を覚ました。起き上がると、目の前に声の主が立っていた。制服を着た警察官である。もしかして‥‥。
「ここ? 保護房だよ。泥酔者を保護する『トラ箱』ってやつね。先輩は物を壊していないし、人も殴ってない、だから保護で済んだけど、飲みすぎだよ。気をつけてね。えっ、本当に俺のこと覚えてないの?」
昨夜は、多忙になる前に、仲間うちで早めの忘年会を開催した。有楽町のガード下で酒を飲み、調子に乗って銀座に繰り出した。2軒目を出て、仲間と別れたところまでしか覚えていない。
「先輩を保護しようとしたら、俺にカラんできて‥‥。まあ、それはいいや、とりあえず所持品を確認してもらっていいかな? カードとか貴重品はこっちによけてあるから、ちゃんとある? 先輩、財布の中に現金がなかったけど‥‥」
そんなわけがない。記憶にある2軒目までは知らない店じゃない。財布にあった現金で十分にお釣りが来るはずだ。
「やられたかもしれないな。最近、銀座も悪質な店が増えていてね。酔い潰れた人をキャッチ(客引き)が無理やり、店内に連れ込んで、さらに強い酒やクスリを入れた酒を飲ませて、意識がなくなったところで、財布から現金を抜き、クレジットカードを使ってしまうんだ。ヤツらも巧妙になってきて、使ったカードをキレイに元の場所に戻しておく。決済日が来るまで、使われたことに気づかないという寸法だ。先輩のカードも全部財布に入っていたから、確認したほうがいいね」
反省の弁を述べ、警察署から出た記者は、すぐにカード会社に電話を入れた。
「昨夜のご使用状況ですね。クレジットで30万円の使用がありますね」
記者はまんまとボッタクリの罠にハマってしまったのだった──。
都市部の繁華街を中心にはびこるボッタクリ店。法規制の強化ですたれたとも言われていたが、どっこいヤツらはしぶとく生き残っていた。かつて「暴力バー」や「昏睡強盗」など、被害者が死に至るケースもあり、ボッタクリの本場と言われたのが新宿・歌舞伎町だ。現在も、ボッタクリ手口の“最新トレンド”の発信基地となっている。
ボッタクリ事情に詳しいライターの上野友行氏はこう話す。
「東京では00年に、いわゆる『ぼったくり防止条例』が施行されて、支払い時にコワモテのお兄さんが現れる荒っぽいボッタクリ店は激減しました。代わりに現れたのが、『プチボッタ』です。少額のボッタクリゆえに被害者も泣き寝入りするという手口です。最近では、法令順守したうえでボッタくる、“合法ボッタクリ”という手口が歌舞伎町で横行しています」