ここまではNHKの想定通りだろう。吉高由里子主演の大河ドラマ「光る君へ」の初回平均世帯視聴率は12.7%。年間通じて平均世帯視聴率で大河史上ワースト2位となった前年の「どうする家康」をも下回り、同枠で最低となった。
ところがNHKのコンテンツ配信サイト「NHKプラス」での初回視聴者数は、49万8000件(ユニークユーザー数)を記録。同配信サイトのドラマ部門では史上最高の視聴件数を叩き出した。番組制作会社の幹部は、これこそがNHKの狙いだと話す。
「昨年ヒットした『大奥』に続き、『光る君へ』は中高年女性を意識したドラマです。オープニング映像では男と女の重なる手でなまめかしさを表現しているように、平安貴族の愛憎劇を題材にしています。今どきのファミリー層は小さな子供と一緒に大河ドラマを見る習慣なんてありませんし、紫式部を取り上げた時点で、NHKは中高年男性視聴者に忖度しようとは思っていない。家族の目を気にせず、女性視聴者がネットで視聴するドラマ作りを狙っているのでしょう」
少子高齢化の日本では2023年から、高齢者が毎年150万人ずつ亡くなる「多死社会」に突入した。NHKにとっては毎年150万人分の減収になるのだから、ネット配信で視聴料を稼がねばならない過渡期に直面しているのだという。
それでも「光る君へ」に、男性視聴者にとっての見どころはある。実在する古文書に好色と書かれた花山天皇だ。民間伝承を集めた「古事談」には、花山天皇は16歳で天皇に即位する日、馬内侍という女官が即位式の次第にのっとり進奏(天皇に言上)に参ったところ、花山天皇はそのまま馬内侍を高御座(天皇の座)に引き入れ、御簾の中とはいえ、衆人環境のもとで「配偶」(性行為)に及んだ、と書かれている。
1月28日の放送では、問題の情事を左大臣の源雅信(益岡徹)が回想。
「帝は今、弘徽殿の女御に首ったけらしいが、即位の日も高御座の中に女官を引き入れ、コトにおよ…」
と愛娘の前で言葉を濁すにとどまった。これまでの放送でも本郷奏多が演じる花山天皇が親王時代、ヒロインの父・藤原為時(岸谷五朗)の漢詩の講義そっちのけで両足で扇を開き、
「よく似た親子で、手応えも似ておる。どちらと寝ているかわからなくなることもしばしばじゃ」
と語っている。母娘との情事を思い出してニヤつく本郷のクズ演技がハマり役なのだが、母娘を手籠めにしたのも史実通り。花山天皇は即位後、弘徽殿の女御だけでは飽き足らず、母方の叔母、さらに自分の乳母を務めた「乳母兄妹」の中務と中務の娘に次々と手を出して、中務母娘をそろって妊娠させている。
さらに2月4日以降の放送で描かれると予想されるのが、花山天皇が自らの側近、関白職の「藤原伊周」の愛人「藤原為光の娘」とその妹まで寝取った事件だ。母娘の次は姉妹とコトに及ぶ天皇に、愛人を寝取られた伊周は怒りを爆発させ、花山天皇に矢を放って失脚した。
この政変に端を発し、花山天皇は藤原一族の陰謀にハメられ、即位からわずか2年で出家、退位させられる。ところが当の花山天皇は出家後、自由な身の上になったのをいいことに、夜な夜な女のもとに通う生臭坊主ぶりを死ぬまで謳歌した。紫式部が描いた光源氏の好色ぶりは、こうした公家や平安貴族の奔放な性生活を参考にしているのだろう。
(那須優子)