いま、MLBで最も注目を浴びている投手の一人がカブスの今永昇太。日本時間の5月14日、強打のブレーブス戦で今シーズン8試合目の先発マウンドに立ち、見事に5回を8奪三振無失点に抑えた。残念ながらチームは完封負けで6勝目はお預けとなったが、防御率は再び0点台に。ナ・リーグ1位の座を譲ることはなかった。
5月に入り、今永先発の3試合でチームの援護が計4点と攻撃陣との巡り合わせが良くないのが気になるが、それでも黙々と相手打線を抑え続けるピッチングにMLBが大注目。前回登板後に公式サイトで数ページにわたる特集が組まれ、専門家による「ライジングボールの精鋭」「稀少な左腕スプリッター」と題した分析が披露された。ところが、その内容が詳しすぎるとしてファンが悲鳴を上げているという。
「今永投手が注目を浴びるのは誇らしい半面、ここまで丸裸と言っていいほど完全分析されると今後が心配になるというファン心理でしょう。SNS上でも『公式サイトでなぜこんなにバラされるの?』なんて声もありました。分析の主な部分は今永投手のフォーシーム、いわゆるストレートが平均92マイル(約148キロ)でメジャーの平均より2マイルも遅いのに、なぜ抑えられるのかということ。ここで注目されたのが、身長も高くない今永のスリークォーター気味の低いフォームから投げられるストレートの特性です。投げられたストレートは当然スピンが掛かりますが、今永のボールのスピンはその99%が軌道の上昇に使われ、上昇率はメジャー全体の第3位。また15~16インチ(40センチ前後)の上昇が平均とされる中、今永の場合は19.3インチ(約49センチ)もボールが浮き上がるようです。これは、サイヤング賞3回のジャスティン・バーランダー(アストロズ)に次ぐという驚異的上昇率。打者はもっと低い位置でバットに当たると思って振っていて、これが98マイル(約157キロ)の投手よりもランナーをホームに返していない理由の1つと表現していますね。題して『ライジングボールの精鋭』だそうです」(スポーツライター)
また、ライジングボールに並んで専門家が注目しているのは、左腕投手では珍しいスプリットの使い手ということ。これが打者をキリキリ舞いさせているとも。
「日本でも左腕のスプリッターは少ないわけですが、それはメジャーでも同じ。『稀少な左腕スプリッター』として長い分析文が掲載されていますね。その中で、今永投手のスプリットは投げた位置から約60センチ落ちると説明されています。そして現在まで、ピッチングの3分の1以上でストライクを先行させていると。さらに0-2、1-2、2-2、つまり2ストライクに追い込まれた状況ではライジングが来るか、スプリットが来るか、これが見事に半々のようです。つまり、2ストライクに追い込まれる前に打てということでしょう」(前出・スポーツライター)
ピッチングの中でスプリットの割合は現状29%と、とにかく痒いところに手が届くほどの分析内容は、日本のスポーツ紙のエモい記事ばかり読んでいる野球ファンには新鮮かつ、恐怖すら感じる。
そんなデータで丸裸にされた中でも力投をどこまで続けられるか。一部では早くもサイヤング賞最有力なんて声まで上がっている「投げる哲学者・今永先生」の快投を、今後も期待したい。
(飯野さつき)