前日の「あさイチ」(NHK)で、俳優の塚地武雅が語っていた「ちょっとした気まずさは明日解決される」という予告通り、視聴者に残っていた疑念は回収された。
6月13日に放送された、NHK朝ドラ「虎に翼」の第54話について、テレビ誌ライターが神妙に話す。
「主人公の佐田寅子(伊藤沙莉)とともに法学を学び、志半ばで朝鮮へ帰ったチェ・ヒャンスク(ハ・ヨンス)がなぜ、寅子の同僚である汐見圭(平埜生成)の妻になっているのか、そして『香子』という日本名を名乗っているのか。さらに、汐見と上司の多岐川(滝藤賢一)が、なぜ同居したかといった謎は解消されたのですが…。それは、とても視聴者の心にズシリと響く重さを伴ったものでした」
この日のストーリーは次のようなものだ――。
多岐川と汐見が暮らす家で再会を果たした寅子とヒャンスク。「ヒャンちゃん?」と問いかける寅子に彼女が放った言葉は、「その名前で呼ばないで」という痛烈な一言だった。
ヒャンスクはどうして寅子にそっけない態度だったのか。家に帰った寅子に母・猪爪はる(石田ゆり子)は言った。「そうしなきゃいけなかったのでしょう。生きていればいろいろありますよ」と。
はたして、ヒャンスクの身に何があったのか。翌朝、汐見が寅子に事情を説明している。
労働争議の扇動の疑いをかけられて逃走したヒャンスクの兄・崔潤哲(ソンモ)はその後、発見され逮捕されてしまう。その事件の予審判事だったのが多岐川だったのだ。潤哲は罪に問われなかったが、彼を通じてヒャンスクと知り合った多岐川は、朝鮮で法律を学ぶ学生たちの手伝いを彼女に頼んだ。
こうした縁で、互いに惹かれ合った汐見とヒャンスクだが、双方の家族に結婚を猛反対されてしまう。ついには、2人はそれぞれの家族から勘当されてしまったのだ。
戦争が終わり、日本へ戻ることになった多岐川や汐見とともに、再び日本へ来ることになったヒャンスク。勘当されて居場所のない2人を、多岐川は居候させた。こうして、日本名「汐見香子」を名乗って、ヒャンスクは日本で生活することになったというわけだ。
「当時、厳しい差別や偏見から身を守るため、在日朝鮮人が日本名を名乗ることはよくあることでした。日本が戦前・戦中に執った政策が、両国の国民に暗い影を落としてしまったのです。ヒャンスクを助けたいと望む寅子に、『この国に染みついている香子ちゃんへの偏見を正す力が、佐田くんにはあるのか』と問いかけた、多岐川の核心を突いた言葉は実に重かったですね」(前出・テレビ誌ライター)
番組終了後には、視聴者から多岐川を絶賛する声が多く聞こえてきているという。そしてどうやら、次に評価されそうな人物が浮かび上がってきたのだ。それが、桂場等一郎(松山ケンイチ)だ。
決定打となったのが、亡くなった花岡悟(岩田剛典)の妻・奈津子(古畑奈和)が、生前の礼を伝えるため寅子を訪れる場面だ。前出のテレビ誌ライターが説明する。
「そのシーンで、奈津子が桂場に『たくさん絵をご購入…』と礼を言おうとして、桂場があわてて言葉をさえぎるシーンがあった。どうやら、桂場は夫を亡くした奈津子を人知れず支援していたと思われるのです。今後、まだ語られていない桂場の本当の人柄や背景が明らかになっていくのではないかと、大いに期待させられますね」
怒とうの展開を見せる「虎に翼」から、ますます目が離せないのである。
(石見剣)