事実上の「満票受賞」だった。2025年のアメリカ野球殿堂表彰が現地時間1月21日(日本時間22日)、米ニューヨークのクーパーズタウンで開かれ、イチロー氏(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が、資格1年目で選出された。
メジャーに在籍した19年間で2653試合出場、通算打率3割1分1厘、通算3089安打、117本塁打、780打点、509盗塁。MLB公式サイトはトップページで、稀代の安打製造機の殿堂入りを祝っている。
ここで気になるのは、あと1票で史上2人目の満票受賞を逃した事実だ。全米野球記者協会に10年以上所属した記者394人中、イチロー氏に投票しなかったのは、わずか1人だった。
日本の記者クラブは非公開だが、全米野球記者協会(BBWAA)は同意した記者に限って、誰が誰に投票したかを公式サイトで公開している。堂々と投票結果を明かした記者に限れば、2016年にあと3票で満票を逃したケン・グリフィーJr.、2020年にあと1票で満票を逃したデレク・ジーターも、得票率は100%だった。
ジーターが満票受賞を逃した際は、同協会で「犯人探し」が行われたが、問題の投票用紙は無記名だったそうで、
「約400人の有資格者の中で名前を書かなかった記者はアイツだけ」
と絞り込まれはしたものの、確定には至らなかった。グリフィーJr.に投票しなかった3人のうち1人と目され「資格1年目の選手には投票しない」と公言していた記者はその後、BBWAAから除名されている。イチロー氏に投票しなかった記者が特定されたら、同じような処分を受けることだろう。
ちなみに「ニューヨーク・ポスト」紙の看板記者はこの投票行動に、Xでブチ切れ。〈イチローは1票差で満票を逃した。バカ野郎は前に出てこい〉と綴り、猛然と批判している。
それでもイチロー氏の得票率は99.7%。ジーターと並ぶ野手の史上最高タイ記録で、イチロー憧れの元チームメイト、グリフィーJr.の99.3%を超えた。
なにしろイチロー氏のヘイト記事を書き続けた地元紙「シアトル・タイムズ」の担当記者も、イチロー氏に1票を投じている。同紙は2008年にイチロー氏の送球をめぐるチーム内の不満と嫉妬から「チームメイトによるイチロー襲撃計画」を報道。イチロー氏がクラブハウスに入ってくると「なんでお前がここにいるの?」と言う選手もいるほど、当時の「イチローいじめ」はメディアも巻き込み、選手生命すら脅かしていた。
だが、その背番号51が殿堂入りとともに、マリナーズ史上4番目の永久欠番となった。
イチロー氏の通算安打3089本の中で最高の1打を選ぶならば、2010年7月30日のホワイトソックス戦、「イチロー襲撃計画」の首謀者とされる元マリナーズのクローザー、J.J.プッツがホ軍への移籍後に記録した「連続無失点試合数27」を止めた、右翼線への痛快な二塁打を挙げたい。
(那須優子)