前述した「マフィア説」とともに、反ウォーレン委員会的な人々の間で有力な説となっているものが2つある。むしろ、映画や書籍などで語られていることで、一般的にはこちらのほうが認知度は高いかもしれない。その1つが「軍産複合体説」である。
軍産複合体は、端的に言えば、文字通り軍事(軍)と産業(軍事企業)の一体化を示し、これらの影響力は絶大で、時には大統領すら凌駕するというものだ。その軍産複合体が、〝儲かる〟ベトナム戦争の終戦に動いたケネディを抹殺した‥‥というワケだ。
この考えはトランプ支持層の一部、中でも「ディープステート(闇の政府)」解体を訴える人々に響く。また、対立関係にあるリベラル層にも「軍産複合体説」は受け入れられてきた。それは戦争こそが利権だと考える先鋭的なリベラル層で、これはハリウッドなどに多く、映画監督のオリバー・ストーンなどが有名だ。その彼が作った映画が、オズワルド単独犯説を強く否定した91年公開の「JFK」だと言えばわかりやすいだろう。
残りの1つは「共産主義勢力説」だ。具体的に言えば東西冷戦の真っただ中だった当時、旧ソビエトこそ共産主義の親玉であり、ケネディ率いるアメリカの最大の敵対勢力だった。さらに、59年のキューバ革命を経て共産主義国家となったカストロ政権との対立と、61年の「ピッグス湾事件」(CIA主導で行われた、亡命キューバ人によるカストロ政権打倒行動)などでケネディが多くの敵を作ったことは事実だ。共産主義勢力犯人説という推測が強くなるのも、致し方ない。
とはいえ、これらの諸説について、今まで公開されてきた機密文書2891件の中で、関連性が見られることはなかった。では、今回の開示でそれらの諸説、あるいはあっと驚く新犯人説が飛び出してくる可能性はあるのだろうか。黒井文太郎氏が断言する。
「もちろん、残された文書に何が書いてあるかはわからないので、その内容については何とも言えない。ただ、一般的なインテリジェンス(情報)から考えてみれば、ある程度は推測することはできます」
そこで見通される中身とは?
「やはり考えられるのは個人情報に関するもの。例えば犯人とされるオズワルドについて捜査機関は徹底的に調べているでしょう。当然、多くの人から話を聞いている。その人たちの個人名などを秘匿する必要があった。いまひとつは、諜報機関などの関係者から話を聞いた場合、わかりやすく言えば情報提供者などですね。これらの個人情報は徹底的に守らなければいけない。彼らのリスクもそうですが、それを守らなければ今後、情報提供者を作ることが困難になってしまう」
山田氏も残る文書は個人情報の可能性が高いとみている。
「例えば、その中には(当時の政権与党)民主党の議員などもいるかもしれない。彼らにとっては事件との関係性とは別に、名前が出ること自体、スキャンダルになる可能性もあった。そういった配慮からの非公開があったのでは。今回の開示でもそれらは黒塗りで出てくるかもしれません。もっとも、残りの文書に何か大きな秘密はない、とは言い切れません。開示を待つしかないですね」
ロスでは大規模山林火災、首都ワシントンでは飛行機衝突事故、年明け早々、未曾有の災難に見舞われているアメリカ。トランプの大統領令が61年前の暗殺事件の封印を解くことで、さらなる災難に襲われるかもしれない。