タイ政府が2024年7月15日に導入した「デスティネーションタイランドビザ(DTV)」は、デジタルノマドやリモートワーカー向けの新たなビザ制度である。このビザにより、申請者は5年間の滞在が可能となる。申請条件として、申請者名義の銀行口座に50万バーツ(約250万円)以上の残高証明や、職業を証明する書類の提出が求められるが、長期間の滞在が可能であり、手続きは比較的、簡素化されている。
しかしこのDTVの登場により、従来の学生ビザを取得してタイに移住していた人々からは「今までのビザ費用は何だったのか」と戸惑いの声が上がっている。
従来の学生ビザでは、タイ国内の語学学校に高額な授業料を支払い、定期的な更新手続きを行う必要があった。とりわけビザ取得のために、形式的に語学学校へ通っていた外国人にとっては、DTVの条件がはるかに緩和されていると感じられるようだ。
例えば学生ビザでタイに滞在する場合、年間5万バーツから7万バーツ(約22万円から31万円)の費用が必要となる。
2年半にわたり学生ビザで滞在している男性は、次のように語る。
「これでは、これまで学生ビザを取得していた人が損をするように感じます。学生ビザを持っていても、日本に一時帰国した後にタイへと戻る際、入国審査で足止めされ、帰国を命じられるケースもあります。DTVなら5年間の滞在が可能なのに、なぜ自分は語学学校に何十万バーツも支払い続けなければならなかったのか」
DTVの導入によって今後の学生ビザの需要が減少し、語学学校の経営に影響を及ぼす可能性も指摘されている。これまで学生ビザ制度は、一部の語学学校にとって安定した収入源となっていたが、DTVの登場により、そうしたビザ取得目的の学生が激減する可能性があるからだ。
こうした状況を受け、タイ政府にはビザ制度の透明性や公平性を確保することが求められる。DTVの導入が他のビザ制度にどのような影響を及ぼすのか、今後の動向が注目される。