この一発が命取りになるかもしれない。阪神で第1号を放った佐藤輝明を心配する声が出ているのだ。春季キャンプが中盤に差しかかり、12球団の練習はより実戦的になってきた。V奪回を狙う阪神も2月9日に沖縄・宜野座で紅白戦を実施。主力で構成された白組の「3番・三塁」で出場した佐藤は、巨人から現役ドラフトで加入した畠世周からチーム第1号となる左越え2ランを放ち、存在感を示した。藤川球児監督はその豪快な打撃に「心強い」とご満悦だったが、それが裏目に出る危険性を孕んでいるのだ。在阪スポーツ紙遊軍記者が指摘する。
「この時期のホームランほどアテにならないものはない。むしろ試行錯誤して、開幕にピークをもっていけばいい。第1号で気をよくするのはいいですが、どちらかといえば勘違いするタイプ。このホームランを目撃した巨人の真田スコアラーはエグいとコメントしていますが、社交辞令に乗せられたら、エラい目に遭いますよ」
この時期、視察に訪れた他球団の関係者がマスコミに対し、賛辞の言葉を贈ることは多いが、実際は餌のようなもの。本音は話してはおらず、褒め殺しに近いケースがほとんどだ。さる球団OBも言う。
「藤川監督は就任以降、佐藤への期待を口にしています。豪快な一発は我が意を得たり、でしょう。でも、肝心なことが疎かになる心配がある」
それは課題である守備力の向上が、現段階では見込めないことだ。2月9日の守備練習ではエラーを連発しており、昨季の「セ・リーグ失策王」の姿は健在だ。
それでも岡田政権下では他の選手がカバーしてきたが、現段階ではチーム全体でも、昨季までは徹底されていた中継プレーに綻びが出始めている。視察に訪れた岡田彰布前監督が苦言を呈したほどで、命取りになる可能性がある。前出の遊軍記者も、
「昨季、スコアボードに0が並んで『たこ焼き打線』と揶揄されただけに、貧打を解消したい気持ちはわかります。でも大補強をした巨人や日本一になったDeNAを上回るには、守り勝つしかない。藤川監督は佐藤の一発を手放しで喜んでいる場合じゃないですよ」
足元を見つめなければ、V奪回は望めない。
(阿部勝彦)