老若男女、ジェンダー、さらにはそのプレースタイルを問わず、多様性あふれる参加者が存在する「eスポーツ」の世界。2018年からレッドブル社のスポンサードを受け、「鉄拳シリーズ」において世界規模の格闘ゲーム大会で活躍してきた女性プロゲーマーが、たぬかなだ。
父親の影響で子供の頃からゲーム好きだった彼女は、徳島県の高校時代に対戦ゲームに魅了されるも、高校卒業後は地元企業に就職。ただ、社会人になった後も「鉄拳」の大会でセミプロとして活躍する。その後、23歳で地元を離れ、チームの本拠地・大阪に住まいを移した。「日本で2番目にプロゲーマーになった女性」として、メディアでたびたび取り上げられる存在となったのである。
ところが新型コロナウィルス感染拡大によりイベント開催が制限されたことで、活動をライブ配信中心に移行。そんな彼女の「大問題発言」が飛び出したのは2020年2月15日、ライブ配信中の出来事だった。
「Uber Eats」を頼んだ際、配達員に突然「連絡先を教えて」と言われ、怖い思いをしたというのだが、その男性が小柄だったとして、
「165(センチ)はちっちゃいね。ダメですね。170(センチ)ないと正直、人権ないんで。170センチない方は『俺って人権ないんだ』って思いながら生きていって下さい。骨延長の手術を検討してください。骨延長手術で調べてください。ホンマ、ちっちゃい男に人権あるわけないだろお前、調子乗んな!」
直後からこの発言がどうなったかは、誰もが想像できるだろう。当日深夜、たぬかなは自身のツイッターで、謝罪に追い込まれる。
〈配信の内容をヘイトスピーチだと指摘されました。そういう意図ではありませんでしたが、不快に思われた方が多いようなので撤回します。(中略)いつもの配信の身内ノリで言葉が悪くなっちゃいました、ごめんなさい~〉
いやいや、本当に謝っているのかわからないこの軽い物言いが火に油を注ぐ事態を招き、批判に拍車をかけることに。翌16日には所属先「CYCLOPS athlete gaming」が公式サイトで謝罪、17日には彼女との契約解除を発表したのである。
事実上のクビを言い渡されたたぬかなは、1年間の活動休止を経て「雑談配信者」へと転身。ところが2023年7月に突如、ゲーミングチーム「NOEZ FOXX」のストリーマー部門に加入したことを発表する。
再びプロゲーマーとして返り咲き、2024年には初の著書も出版。たびたびの炎上を経験したことで「もう好かれなくてもいい」と、封印していた過激発言が復活した。皮肉なことにその開き直りが支持され、炎上時に4万8000人だったSNSのフォロワー数は25万人(2月現在)に。現在もその振り切った発言とテクニックで、eスポーツの世界で異彩を放っている。
(山川敦司)