原発以外の産業の誘致を!
原発と共存しているかに見える住民にも、違った本音がある。居酒屋で会った原発の下請け会社で働く30代男性は、アルコールが入るとこう吐露した。
「ここらの人間は、大飯だけじゃなく敦賀(原発)でも働いておる。でも、他に安全な仕事があればそっちをやる。結婚し、子供が生まれ、よけいにそう思う」
野田総理が「自治体のご理解」と言うのは、ひとりひとりの住民の思いなどではない。あくまで、5月14日の「おおい町議会」の採決である。その採決に唯一、反対票を入れた猿橋巧町議はこう話す。
「そもそも政治家が技術論を語って、決めることがおかしい。結局、安全第一とか言いながら、雇用や経済問題にすり替えている。他の町議からも『1週間で決められない』『福島の現場を見てから判断しては』との意見もありましたが‥‥」
しかし、地元住民には現実的な雇用問題がある。
「もちろん、(原発を)止めろと言っても、町民は納得しません。この町は交付金で潤ってきたのですから。町の予算は約140億円で、同規模の自治体の約3倍です。その甘い蜜を吸って、原発以外の企業誘致の努力を怠ってきた。もはや脱原発の流れは止まりません。そこで、私は廃炉をビジネスにすべきと主張している。1基廃炉にするのに800億〜1000億が必要であり、並行して既存のタービンや送電線を使って新エネルギーを生む施設を造れば、雇用と財源を生みます」(猿橋氏)
時岡忍町長はこの提案をどう受け止めているのか。大飯原発が送電を開始した7月5日早朝、直撃した。
「福島の事故を契機に、原発に頼り切るのではなく、別の産業も取り入れる必要性を感じています。しかし、これも国の方針しだいです。野田総理は国が一元的に責任を持つと明言してくれませんでした。だから、私は昨日の懇談会で牧野聖修経産副大臣に言いましたよ。『議員さんが原発をランク付けしとりましたが、必ず政府がフォローしてください』とね。ランキングを出すだけ出して、『はい、さよなら』では不安が広がるだけです。避難道を造る案を出したら、その大島の住民から『どこに逃げるんや。わしらここで死ぬわ』と言われたこともある。国にははっきりとした態度を示してもらいたい」(時岡氏)
原発近隣の住民の絶望感は町長にも届いていた。
その日の夕方、おおい町で美しい夕暮れの中、幼い兄弟が仲よく自転車をこいでいる姿を見た。こんな子供たちに、これ以上の絶望は感じさせたくない。