人気絶頂時のトップアイドルだった田原俊彦に、直撃取材したことがあった。1983年のことだ。当時はまだ新宿区河田町にあったフジテレビに潜入し、収録後の田原を直撃するという手筈だった。松田聖子と交際の噂があり、これについて問い質すのが、新人である記者に課せられた使命だった。
この頃のテレビ局は比較的警備が緩く、名刺を出せば中に入ることができた。筆者が所属していた媒体はジャニーズ事務所から出禁を食らっていたため「まともな取材はできないだろう」と諦め半分で田原の控室近くで待機していた。
そうして30分ほど経った頃だろうか。ひとりの男性が筆者に声をかけてきた。「田原が呼んでいます」というのだ。てっきり抗議されるものかと思い、田原の控室に入った。
田原は筆者に笑顔を見せながら言った。
「いや、他の人に迷惑なると思うので来ていただきました。聞きたいことがあるならお話ししますので」
なんと意外な言葉を発したのである。予想外の対応に驚きつつも、聖子との噂について聞くと、淡々と答える。
「聖子ちゃんとはいいお友達です。言われてるような関係ではありませんよ」
田原に対しては「チャラいお兄ちゃん」みたいなイメージを持っていたが、この紳士的な対応には驚いた。当時、彼は22歳ぐらいだったと思うが、自分よりも年上に見えたものだ。
田原は1994年に長女誕生後の記者会見で、
「僕くらいビッグになると」
と発言。ジョークが通じずにメディアから大バッシングされたが、筆者は秘かに「負けるなよ」と応援していたものだ。
(升田幸一)