高橋英樹主演「捜査検事・近松茂道」(テレビ東京系)の主人公・近松茂道は慎重に捜査を進めることから、名古屋地検時代は「グズ茂」と呼ばれていた。
実は政界にも「グズ茂」がいる。石破茂首相その人だ。石破首相の場合、慎重というより優柔不断と言っていい。その「グズ茂」ぶりを示したのが、訪米をめぐるドタバタだった。
石破首相は当初、トランプ氏が大統領選で当選した直後に訪米し、会談しようとした。国際会議出席のためペルーとブラジルを訪れた後、米フロリダ州に立ち寄ってトランプ氏と会談し、個人的な信頼関係を築きたいとの思惑で調整してきた。
だがトランプ氏サイドから、就任前に各国首脳との会談を禁じるローガン法の制約がある、との連絡が入ったこともあり、訪問を断念。ところがトランプ氏は昨年12月、安倍晋三元首相の昭恵夫人と会食した後、石破首相に「ぜひ会いたい」と言い出した。
昭恵夫人の訪米を受けて、石破首相は1月20日の大統領就任前に訪米することを画策。日程を確保するため通常国会の召集を1月24日にずらした、とも言われている。
今年は都議選、参院選が予定されているため、国会延長は難しい。本来ならばもっと早く召集すべき、との声が与党内から出ていたにもかかわらず、だ。
トランプ氏は記者会見で「日本の首相という地位に大きな敬意を持っている。彼が会談したいのであれば、私はここにいる」と語っている。
ただ、日本政府内には準備が十分に整わないままトランプ氏と会談すれば、
「ボコボコにやられるだけ」(政府当局者)
との慎重論がある。結局、石破首相は訪米を2月以降にすることにした。
石破首相がもたもたグズグズしている間に、トランプ氏は1月4日、イタリアのメローニ首相と会談するなど、事実上の外交活動を始めている。とある閣僚経験者が言う。
「2月は来年度予算案の衆院通過、3月は参院での成立を控えており、とても外遊している時間的余裕はない。このまま石破首相はずるずると訪米できないまま、終わるのではないか」
あながち妄想とは思えない「グズ茂」ぶりなのである。
(田中紘二/政治ジャーナリスト)